あきらっち

アンコール!!のあきらっちのネタバレレビュー・内容・結末

アンコール!!(2012年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

邦題の“アンコール!!”より、
原題の“SONG FOR MARION”
の方が私は好きだ。

歌やコーラスを扱う映画は若者が主役の場合が多いように思えるが、この作品はちょっと違う。

美人教師のエリザベスの指導の下、第二の人生を謳歌する年配のコーラス教室が国際コンクールを目指す。
その名も“年金ズ”!

スピード感はない。
華麗なステップが踏める訳でもない。
だけど熱い気持ちはまだまだ枯れちゃいない!

エリザベスと教室の面々との掛け合いに、観ていて頬が緩む。


年金ズの一員であるマリオン。
彼女の夫アーサーがこの映画の主人公。
いつも仏頂面。口数少なく不器用ながらも重い病を患う妻をいつも気遣っている。
マリオンの身体に負担がかかるコーラス教室を嫌い、コーラス仲間に暴言を吐く。
愛するマリオンに怒られしょげるアーサーの不器用さが、何とも可笑しく可愛らしくさえ感じてしまう。
アーサー夫妻には一人息子がいるが、アーサーは気持ちと裏腹に、彼に優しく接する事ができない。不器用な性格故に愛しているのに素直になれず、うまく噛み合わない二人の歯車が観ていてもどかしい。(男同士って多かれ少なかれ、そんなところありますね…)

コンクール予選にて、
そんな彼の心に届けとばかりに歌うマリオンのソロ。

シンディ・ローパーの“トゥルー・カラーズ”

私にはあなたの本当の色が見える
あなたの本当の色
それは美しい色たち
まるで虹のよう

堅物だったアーサーが、少しづつ変わっていく。

マリオンの活躍もあり本選へと駒を進める年金ズ。
だが神様は残酷だ…

悲しみ落ち込んだアーサーは息子すらも寄せ付けず、そんな彼を気にかけるエリザベス。
彼女の飾らず温かく人懐っこい人柄に再び心を開き出すアーサー。いつしかコーラス教室にも参加するように。

アーサーは本選を前に息子との絆を取り戻そうとするも、取り返せないほどの心の溝に千千と乱れるアーサーの心…

ラストにかけてのエピソードは、ここでは伏せておこう。
ドラマチックな展開に、心が震えた。

コンクール本選の舞台で最愛の妻マリオンへ向けて歌うアーサーのソロ。
ビリー・ジョエルの“眠りつく君へ”
彼が自分の娘への思いを歌詞に込めた歌だという。

いつの日か僕らはみんな旅立つ
でも子守歌は尽きることなく続く
子守歌は永遠に生き続ける
それと同じように
君と僕も永遠に共にある

落ち着き、静かだが力強く、気持ちがこもった渾身の歌声に、会場の観衆同様、自分の心も撃ち抜かれた。

喝采に湧く会場。
やっとマリオンに心から自分の気持ちを伝えることができたアーサーの顔に、もうくもりは無い。

あの日を境にマリオンと一緒に寝ていたベッドは辛すぎて、ソファーで眠る日々だったアーサー。

コンクールを終えた夜、心地良い疲れと心の安らぎに満たされ、ベッドで深い眠りに落ちる。

大好きなマリオンの匂いに包まれて。


※キャスト、ストーリー、バックに流れる音楽、全てが最高に素晴らしかった。
マリオンとアーサーの二人の愛が羨ましくなるくらい思い遣りに溢れていて胸を打つ。
特にアーサーを演じたテレンス・スタンプの演技は、ある意味怪演と言ってもいいくらいに、この映画を名作たらしめる、地味ながら強烈な輝きを放っていた。

決してお涙頂戴なんてではなく、自然と涙が溢れてくる、良い意味で裏切られる、そんな映画。
あきらっち

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