木蘭

悦楽の貴婦人の木蘭のレビュー・感想・評価

悦楽の貴婦人(1977年製作の映画)
4.6
 ラウラ・アントネッリやマリー・ベルの名前から単なる艶映画だと思ったら大間違い。堂々たるメロドラマ。

 不仲な夫に依存し、狭い世界に閉じこもって何も出来ない金持ちの奥方が、姿を消した夫の仕事を図らずも引き継ぎ、何も知らなかった夫の足跡をたどる事で外の世界を知り、仕事をこなし、性の喜びを知り、夫と自分とを見つめ直す・・・という話。
 つまりは一人の女性の自立を描いた物語。

 ラウラ・アントネッリが本当に魅力的で、初めは殻にこもって表情も乏しく詰まらない女だったヒロインが、徐々に輝きを放ち艶やかになっていく様は素晴らしい。肌の露出は控えめだが、出演作品中、屈指の色っぽさなのではないか。演出の妙もあるだろうが、ラウラ・アントネッリの演技力の高さが分かる。
 夫を演じるマルチェロ・マストロヤンニを初め、脇を固める俳優・女優たちが(ジャンルは様々なれど)、名の通った役者をそろえている所からして立派な作品・・・とは言い切れないのがイタリア映画だが。

 1977年のイタリアらしく、貧富の差や封建的で抑圧的な教会を中心とした社会と鋭く対立する社会主義や文化的自由主義、それにフェミニズムといった左翼思想が通底している。
 それと同時に、今も良く聞く話だが、開明的で弱者の救済に名をはせた活動家が、内々では搾取や放蕩、殊に性差別的な行為に及んでいたりするという実例を、夫のキャラクターに内在させている。
 それは夫が男社会にあぐらをかいていた面もあれど、彼の望む様な夫婦の姿では無かった不幸な結果でもあり、それ故に苦悩する姿が男性からしても共感できる。自立していく妻をのぞき見る事で、夫の意識も変化していく描き方も上手い。
 それと童貞男の悲しさも身につまされるよなぁ・・・。
 足りなかったの愛ではなく、敬意であり、それには互いを良く知らねばならないという男女の話。

 古い映画だが、今なお現代的な問題を描いた立派な作品だった。
木蘭

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