イペー

侵入者のイペーのレビュー・感想・評価

侵入者(1962年製作の映画)
3.6
白と黒で赤!

人種差別に対し、鋭い批判意識で切り込んだ社会派ドラマにして、コーマン監督随一の問題作。

黒人差別の激しい南部のとある町に、全身を白いスーツに包んだ、アダム・クレイマーと名乗る男がやって来ます。
彼は人種統合政策に反対する町の住人たちを煽動して、次第に白人のヒーローとして祭り上げられていきます。

アダムはハンサム。よそ者でありながら、得意の弁舌や性的な魅力をフルに活用し、町民たちの差別意識を掘り起こす姿が描かれます。彼の真意がサッパリ分からないのが恐ろしい。
田舎町で白人の代弁者として振る舞い、人妻や女子高生を誘惑。町の権力者に取り入って、やりたい放題です。

ところがアダムの意図を超えて、住人たちは暴走、行動はエスカレートします。
焦るアダム、卑怯な手段で主導権を取り戻そうと陰謀を巡らせる。
…何がしたいんだ!アダム!

最後には思わぬところからアダムの陰険な計画が露見します。しかし結局のところ、アダムの背景は良く分かりません。
当時の南部にいた白人のイヤな部分を、そのまま具現化した存在なのかもしれない。

映画の中でアダムという悪魔の正体を暴く事は、当時の社会に蔓延する、根強い人種差別を告発する事でもあったのではないでしょうか。

"B級映画の帝王"ロジャー・コーマンの監督作品の中で、唯一赤字だったのが、この映画だそうです。(プロデュースであればコックファイターも赤字)

当時としては異例の内容。撮影時にも数々の嫌がらせを受け、まさに命がけだったとの事。興行的な失敗もあり、以降B級道を突き進むことになるコーマン。

一人の偉大な映画人の重大な転換点として、とても興味深い作品でした。内容的にも緊張感(おそらくスタッフ、キャストの本物のヤツ)が漲っています。コーマン先生のファンならば、必見…なのかな。

自分もコーマン先生の作品、徐々に観てますが、関わった作品の数を計算すると、まだまだコーマン先生を語れる日は遠そうです…。
イペー

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