くりふ

侵入者のくりふのレビュー・感想・評価

侵入者(1962年製作の映画)
3.5
【カーク船長の悪人時代】

オーディトリウム渋谷の特集上映、コーマン・スクールにて。

多産なコーマンですが(まだ現役らしい)、産まれたうち、一番望んで作ったのに、一番鬼っ子扱いされた、不遇の佳作。

50年代の黒人差別を扱っていますが、社会派の気取りはなく、キビキビした娯楽作です。短尺で端的に描かれ、しっかり面白い。『ジャンゴ』よりこちらの方が、私は頭のよい感じがしました(笑)。

人種分離政策が違憲となり、白人の高校に黒人も通うことになった、とある南部の町。皆が緊張する前夜、曰くありげなイケメンが現れる。後のカーク船長ことウィリアム・シャトナーが演じていますが、実に生き生きとしながら、美しさに脆弱な隙が交るのがいいです。

ソーシャル・ワーカーと名乗る彼は、実は侵入者であり扇動者。皆が我慢し、耐えている本音…差別意識に火をつけて回ります。

黒人にとって、登校することが命懸けになってゆく無益な緊迫。数多の白人優位主義者から見れば、彼らが侵入者なんですね。

KKKまで現れる驚き!これマジで怖い。燃える十字架の凶暴な輪郭。その中で独り、差別にNOと宣言する、妻子ある男も現れるが彼も…。

コーマン監督の演出は、巧みは薄いが切れ味よく、引き込まれます。観客をいかに手際よく惹くか、実戦で鍛えたせいでしょうかねえ。このコーマンは名器…い、いや名人と言えるんじゃと初めて思った。おっぱいも怪物も出なくて、こんなに面白いとは!(でも爆発はある)

クライマックスの途中で予算尽きた?と気になる仕上がりですが(笑)。

後で自伝を参照したら、原作では州兵が出動する騒ぎになるそうです。お話は小ぢんまりとしてますが、人物の葛藤が物語をぐいと動かして、始め余計な脇役かな、と思った人物が物語を乗っ取るあたりなども、古典的な扱いですがいい。エキストラ含め人物そのものが面白いです。

コーマン自伝には、いろいろ興味深いことが書いてあります。時流に敏感なコーマンは、ケネディの公民権法成立優先の政策を受け、本作の制作に入りますが、ロケ地の町は人種統合教育に変わったのが、まだ一年前という場所で、撮影を進めるうちロケ隊に、脅迫電話や、脅迫状が届くようになったそうです。

クライマックスの撮影も、第一候補地は保安官に追い出され、第二候補地でも抗議に遭い、フレームの外で警官と交渉しながら撮影を続行したとか。逆に差別への扇動や、KKKのシーンは協力的だったそうですね(苦笑)。

ヴェネチア映画祭で受賞し、批評では、映画産業全体の名誉である、とまで書かれたのに、初の黒人大学生の入学を巡り暴動が起きると、カンヌ映画祭からは引き上げられ、配給業者も手を引いてしまって、実質、公開できなくなったそうです。

コーマン自身は30年近く後の、『ミシシッピー・バーニング』と比較して、同時代の問題を扱い、観客に自分が攻撃されていると思わせたのでは?と分析しています。

本作、国内版のDVDはすでに発売されていますね。そのうちレンタルも始まる気がするので、もう一度くらい再見したい。大きなスクリーンでみるあの怖さは、もう味わえないとは思いますが。

<2013.4.3記>
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