櫻イミト

侵入者の櫻イミトのレビュー・感想・評価

侵入者(1962年製作の映画)
4.0
人種問題を扱った名作「アラバマ物語」(1962)と同年に、B級映画の帝王ロジャー・コーマンが監督した同テーマの社会派映画。人種問題が強く残る時代の南部で撮影された。

アメリカ南部の町にアダム・クレイマーという野心家がやって来る。町では人種統合政策により地元高校に黒人の生徒が10名入学することになっていた。アダムは集会を開き、弁舌巧みに白人の心の奥にある黒人に対する不満と憎悪をかき立てる。町に不穏な空気が高まる中、黒人街の教会が爆破され黒人牧師が亡くなる事件が起きる。。。

インディペンデントだから実現した危険なB級社会派映画だった。

南部の白人たちは、幾多の映画でのナチスに対する扱いと同レベルに徹底的に悪として描かれる。KKK(クー・クラックス・クラン)の三角頭巾の男たちが黒人街の教会の前に炎の十字架を建てて威嚇する。集会ではNAACP(全米黒人地位向上協会)を名指しで陰謀をたくらんでいると糾弾する。観ているこちらは差別主義の白人に対する恐怖が募っていく。

露悪的に差別主義者の愚行を描く手法は、「アラバマ物語」やフライシャー監督の「マンディンゴ」 (1975)を連想する。黒人監督にとっては禁じ手の手法であり、白人監督が作るべき映画だと思う。

終盤に来て、緊張感が持続できなかったかのように緩い展開になるのもB級ぽい作りだった。結果的に過激な政治映画になり過ぎずに終わってゆくのは(コーマン監督の計算かどうかはわからないが)それまでが本当に危険な内容だったので観終わって何処かホッとした。おかげで名作・傑作には成り得なかったわけだがメッセージは心に残った。
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