ゆう

海がきこえるのゆうのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
4.5
期間限定上映(渋谷1館のみ)。
連日満席が続いていたが、上映終了間際にようやく鑑賞。
ル・シネマにはよく足を運んでいるが、明らかにいつもと客層が違う(~20代と思われる観客がほとんど)。すぐ近くのシネコンでやってるコナンくんではなく本作を選ぶとは、皆さんなかなか殊勝な選択である。

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高校時代は、人生においても特殊な時期だと思う。
心も体も大人に近づく中、閉ざされた特別な環境下で変化の乏しい生活を強いられる。

否が応でもスクールカーストにはめられ、運動や勉強ができるか、容貌が優れているか、日々モンモンとしつつ、常に空気を読み、できる限り浮かないよう心掛ける。
でも本当はその境遇に納得しているわけではない。その環境から抜け出せないので、やむを得ずという感じである。

そのような中、突然現れる転校生。
容姿も整っているし、運動も勉強もできる。でも、考えるより行動が先に立つ尖ったタイプ。まったく空気を読まない。まるで抑圧された自己を開放した存在である。

嫉妬、羨望、恋心・・・。ベースとなる気持ちは違っているが、みな彼女が気になってしょうがない。良くも悪くも、彼女は常に注目の的である。

そんな転校生・武藤にさんざん振り回される杜崎。
不条理にも、武藤からは2度も平手をくらい、松野からは殴られる。
痛手を負うにつれ、彼は無理やりにも成長を促される。
彼にとってこの高校生活は忘れがたいものとなっただろう。

卒業してから数カ月。彼らの成長ぶりは目覚ましい。
それほどに高校卒業してからの変化は大きいものであろう。

大人になって再会を果たす武藤と杜崎。
続編に期待したところだが、あいにく宮崎駿の逆鱗に触れたとかで、現体制下での実現は厳しかろう。
(すでに30年の月日がたっているし)
彼らの等身大の今後の人生に思いをはせたい。

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服装や髪型の流行はめぐるというが、かなり前の作品にもかかわらず、トップスをインして、ハイウエストでパンツをはくとか、今のキレイ目の高校生のトレンドとかぶっているところが多い。
カセットブームも来ているとか来ていないとかも聞くが、そのあたりも本作が注目を浴びている一因なのだろう。

とはいえ、本作がエモいとかそんなレベルで評価されるのはもったいない。
少女漫画のようなキラキラな高校生活ではない、子どもと大人のはざまの、独自かつ微妙な空気感を漂わせた、たぐいまれな名作である。
ゆう

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