あんがすざろっく

海がきこえるのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
4.3
恐らく、今年一番悔しかった件。

先々月「テルマ&ルイーズ」を観に行った際、待ち時間に劇場のロビーでチラシを見て回ってたんです。
本作のチラシが目に飛び込んできて、ビックリしました。

「マジか⁉️」

昔は映画を観たらパンフレットは買ってたし、チラシも集めてたんですけど、保管場所に困って、結婚した時に処分したんです。
それ以来、パンフレットは滅多なことがなければ買わなくなったし、チラシも持って帰らなくなりました。

しかし、本作のチラシは見つけた途端に思わず手に取っていました。

何が何でも劇場で観たいと、何とか時間を作ったのですが、その回は満席で観れず…
結局観れないまま、限定公開は終了してしまいました😢
あまりに悔しいので、DVDを購入して、久しぶりに鑑賞しました。



舞台は高知。
杜崎拓が通う高校に、東京から武藤里伽子が転校してくる。
拓の親友、松野豊は何かと里伽子が気になるようだが、周りの空気に馴染もうとしない彼女は、クラスでも浮いてしまう。
そんな中、修学旅行先のハワイで、拓は里伽子から思わぬ頼み事をされる羽目に…。




数あるスタジオジブリ作品の中で、おそらく
知名度の無さと地味さでは一、ニを争うのではないでしょうか。

それもそのはず、本作はもともとテレビスペシャル用に作られた作品で、劇場公開は視野に入っていなかったんです(その後、何度か限定で公開されたようですが)。
また、ジブリとは言え、宮崎監督や高畑監督は全く絡んでおらず、当時ジブリの若手スタッフが実験的に製作した作品でもあります。


何故だか理由は忘れましたが、僕の仲間内で一時期この「海がきこえる」と、氷室冴子さんの原作小説が流行りまして(20代前半だったかな)、随分みんなで話をしたものです…
一番は何よりも「武藤里伽子を好きになれるか論争」😅
友達は好きだったようですが、僕は当時から里伽子のような子は苦手だったなぁ。

浮き沈みが激しく、周りには頑なに溶け込もうとしない里伽子。
ただ、これは里伽子の家庭環境や疎外感があったのでしょうね。
今なら彼女の気持ちが分かるような気がします。でもまぁ、高校生時代にこんな子が傍にいたら、仲良くはなりたくないけど…。

「私初日が重いの」
それ、同級生の男子に言いますか😳
相手もリアクション困るだろうに…

コークハイ、喫煙、今ならば確実にコンプラに引っかかるシーンが多くて、だから簡単に放送もできないのかな。
そこがリアルだったりする訳ですが。


修学旅行でのいざこざもあり、拓は「腹いせに」里伽子の写真を買うのですけど。
ん?「腹いせ」?
何で腹いせで写真を買うのか。
拓はこの時はまだ、自分の気持ちに気付いてなかったんじゃないでしょうか。

そして卒業まで引きずってしまう、とんだ東京観光。
しかし、ここで拓は里伽子のもう一つの顔を目の当たりにします。


優等生の松野が里伽子に惹かれていることは、はっきりとした台詞でなくても伝わってきます。
それが分かって、何故か理不尽に腹が立つ拓。
親友の気持ちを取られるみたいで、嫌だったんでしょうね。

「女なんぞに、お前の良さは解りゃせんと」。


「アンタのこと、かいかぶっちょったかも知れん」
実は里伽子に一目置いていた清水も、文化祭で決定的な仲違いをしますが、後年「お互い様」だったと和解しています。

どの人物も、感情の揺れ動きが本当に繊細に描かれているんです。


舞台となった高知は、製作スタッフがロケハンを行なった上で描かれており、松野と拓が語り合う港の岸壁や、ライトアップされて浮かび上がる高知城をみんなで見上げるシーンなど、印象的な場面が際立っていて、地味ながらしっかりと地に足の着いた青春映画になっているところが、僕は大好きです。

音楽は、永田茂さんという方が担当していて、ジブリ=久石譲さんのイメージから脱却することに成功しているし、サントラを聞くと胸に込み上げてくるものがあります。
主張が前面に出ている感は否めませんが、この劇伴あっての「海がきこえる」になっていると思います。
主題歌の「海になれたら」は、里伽子の声をあてた坂本洋子さんが歌っており、こちらも名曲。


田中麗奈さん主演の映画「がんばっていきまっしょい」は、全編通して聞こえる伊予弁が心地よかったのですが、「海がきこえる」のほとんどを埋め尽くすのは、土佐弁です。
里伽子が「時代劇みたい」と評したその土佐弁が、作品の良いリズムを作っています。



耳をすませばが、人を好きになること、夢に向かって進んでいく、真っ直ぐで純粋な陽性の青春映画だとすれば、海がきこえるは、焦りと不安、怒りを内包した青春時代を振り返る、陰性の作品だと言えます。
異質なんです。

様々な年代の客層に受け入れられる作品が多いジブリの中で、極端に支持層が限定されそうな作品でもありますが、逆に他の作品では見られない魅力に溢れた1本でもあります。
これから何回も見返すんだろうな。


オープニングとエンディングで東京の吉祥寺駅が描かれますが、中央線と総武線が単色カラー‼️
時代を感じました☺️


本作が初めてテレビ放送されたのが、1993年の5月5日。
図らずも、ほぼぴったり31年後にあげるレビューになりました。




あぁ…やっぱり僕は好きなんや。
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