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海がきこえるのkyのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
3.1
ジブリで1番回収に苦労した作品ということも頷ける内容でした。映画としては可もなく不可もなくですが、ジブリという事で期待値は高かったのですがあまりメッセージ性を感じ取れませんでした。淡い高校生時代の謎の言動。

高知の高校生の拓が東京から転校してきた理伽子に恋をする物語。ハワイへの修学旅行や突然の2人きりの東京旅行などを通して彼女に振り回された拓の姿が描かれる。

彼女の我儘加減が素晴らしく感情移入出来ませんでした。それについて回る彼らについても違和感です。どんな彼女であろうと青春時代というのは、そこしか見えない的な感情を映しているのかもしれません。此れの是非というのは当時だから良いものでしょうけども、今見るとなんだかどうしようもないななどと思ったりもします。

回想カットの切り方が類を見ない形で独特です。白に縁取られた演出によって時の流れと当時の淡い記憶を回想しています。ジーンズに白Tという所謂尾崎ファッションが投影されていました。個人的には好きですし現在のノームコアの原型とも言えるファッションだと思うので文化としても素敵だとは思います。

ジブリ作品としては珍しくロードショーで数回しか放送がなかったよう。というのも未成年の喫煙や飲酒シーンがあるため。そういう意味では今というのはそういう表現の自由というのも奪われてしまっているのだと感じさせられます。

そんなこともあり初めて見た作品でした。ジブリだと最近見た「おもひでぽろぽろ」「耳をすませば」と似た類の誰もが経験したような有り触れた情景を写した作品かと思い鑑賞していました。それらからは強いメッセージ性を感じましたが、こちらはそれらよりは薄めに感じました。制作に携わったのは当時のジブリの若手製作陣ということで、やはり宮崎駿さんや鈴木敏夫さんの力は計り知れないのだと思ったりもします。テーマ的には近いものがあると思うのですが映画としての完成度はまるで違っていました。

当時宮崎駿さんや鈴木敏夫さんは「紅の豚」の制作に追われていたという事。ジブリに新しい風を吹き込むという事で若手中心の制作になったようです。「スタジオジブリ」というのはやはり彼らがいないとジブリ作品とは違った作品になってしまうようです。すると「ジブリ作品」というより、最早「宮崎駿作品」「鈴木敏夫作品」とでも言った方があっているのかもしれません。

最近法人化した「ほぼ日」に対しても同じ印象を受けています。コピーライターとして有名な糸井重里さんが代表ですが、彼ありきの企業ではあるように感じています。代表だから当然といえば当然なのですが。継承していくという意味でも法人にしていくことを選んだのだと思うのですが、少し残念にも思っていました。彼の言葉というのは何処とも言えない妙に心に寄り添う言葉が沢山あって、心にストンと落ちてくるのが心地よいのです。だから此方も感じ方としては「ほぼ日」の言葉というより「糸井重里さんの言葉」ではあるんですよね。そう思うとジブリのスキームや今作の異色感とも似ているところがあります。

高知が舞台ということで、高知弁が多用されます。高校生だけれども高知弁は妙に大人っぽさを感じさせます。中身が大人びているわけではないのですが発言自体は大人びて感じるのです。すると口先と中身ののギャップがシナジー的に感じて寧ろ子供っぽくも感じたりしました。
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