湯っ子

ペトラ・フォン・カントの苦い涙の湯っ子のレビュー・感想・評価

4.1
戯曲をもとに作られたとのことで、まるで舞台を観ているよう。それでいて映画的な表現もあり。ペトラ・フォン・カントの暮らす部屋で、女性たちが繰り広げる会話劇。沈黙にも緊張感が漂っていて、一瞬ウトッとするけど持ち直す、を繰り返しながら最後まで飽きなかった。

女性たちの会話は常に相手とのパワーゲームのよう。男性はひとりも登場しないが、常に男性という存在が彼女たちの頭上を覆っている。部屋の壁一面に飾られた絵画の真ん中には男性の裸体。

「支配的」な男性への批判であると同時に、女性も可能な環境であれば「支配的」になること。
女性は「服従」を不本意に強いられているように見えて、実は「服従」に甘んじるのを望んでいる場合もあること。
男性社会への批判だけでなく、男性社会に生きる女性への批判も手厳しいと感じた。

ペトラがカーリンに恋焦がれたのは、美しさや豊かな才能というよりは、つれない態度で気を惹くのが上手いから。終盤でのペトラの娘のセリフが不意に芯を食ってくる。「私あの人好きじゃないわ、普通の人なんだもん」。

マレーネの最初で最後の意思表示を目の当たりにしたペトラの選んだ曲は“The Great Pretender”
。暗闇にひとり残されたペトラは、思いがけず自由を感じて、意外なほどぐっすり眠れるのかもね。
湯っ子

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