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ペトラ・フォン・カントの苦い涙のSPNminacoのレビュー・感想・評価

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初ファスベンダー。時間(タイミング)と構図(視点)がガッチリ組み合ったメロドラマだった。
ペトラの鷹揚な台詞回しとSmoke Gets In Your Eyesのスローな時間の流れ。かざした手の下から覗くペトラの顔、ペトラの頭越しに見せる女の顔、カーリンが顔を出すタイミング。手前と奥で切り返す視点。部屋の奥の闇で、そこだけスポットライトが当たったみたいに浮かぶ黒衣のマレーネの白い顔。ペトラとカーリンの会話を伴奏するかのようなタイプ音と、それが止むタイミング。
ブラインドやカーテンに覆われた部屋には、マネキンや小さな人形、デザイン画のモデル、壁紙のバロック絵画にも裸体の男女が描かれて、常に密度濃く人の存在に取り囲まれている。その中で圧倒的な孤独と閉塞感から逃れられない。
ほぼ5幕劇構成でセットは少しずつ様子を変え、ペトラのルックも相手ごとに変わる。過剰に着飾った女たちはマネキンのように人工的にも見え、昼間の光で美と醜が反転する。時が経ちカーリンとの関係が断絶すると、2人の間を木の枠が水平に仕切ったり、壁の絵画の中に入り込んだように見えたり。カメラがゆっくりパンして構図を変えると同時に人間関係の構図も入れ替わる…すべて計算され尽くした動きがすごかった。そして手前から奥に並んだ女5人の時間が止まるショット!
密室の外側には見えない男の影がちらついて、「世界を征服する」密談をした女たちにも支配の構図が同じく繰り返される。けど、これはマレーネの物語なんだよね。闇を飲み込んだ彼女が去ると舞台の明かりも消え、幕が下りる。完璧。
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