櫻イミト

悪魔のやからの櫻イミトのレビュー・感想・評価

悪魔のやから(1976年製作の映画)
3.0
ファスビンダー監督中間期の一本。「シナのルーレット」(1976)の前作。つまり薬物にハマっていく前夜の作品。

スランプに陥った詩人クランツは金策に駆けずり回っていたが、突然インスピレーションがわき見事な詩を書き上げる。しかしそれは有名な詩人シュテファン・ゲオルゲ(実在)と同じものだった。アイデンティティが混乱したクランツは自分をゲオルゲだと妄想しはじめ、その身なりや思想まで模倣。さも自分が特別な存在、独裁者のように振る舞うのだが。。

やけにテンションの高いブラックコメディ―。主人公夫妻はわめき続け気の弱い弟は蠅の死骸を収集。脇役たちも情緒がおかしく全体的にヒステリックな演出が続く。DVD解説書によれば、後の「第三世代」の先駆となる悲喜劇とのことだが、今作はそれほど難解な手触りではなくストーリーも割とハッキリしている。

監督自身、1974年の「マルタ」が盗作スキャンダルに巻き込まれるなど、色々とうまくいかず追い詰められていた時期で、たまったストレスを今作で爆発させた感が伝わってくる(「シナのルーレット」にも盗作エピソードが盛り込まれている)。

芝居じみた狂熱は最後にカーテンコールのようにチャラにされる。個人的にはテンションを維持して完走してほしかった。それは破滅へ向かうということだが、監督は踏みとどまる選択をしたということか。

ファスビンダーの盟友、ダニエル・シュミット監督によれば、『悪魔のやから』は『ベルリン・アレクサンダー広場』のエピローグと並んでもっともファスビンダーの特徴を示した作品とのこと。
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