まぬままおま

ミークス・カットオフのまぬままおまのレビュー・感想・評価

ミークス・カットオフ(2010年製作の映画)
4.0
ケリー・ライカート監督長編第四作。

「舞台は1845年のオレゴン州。西部への移住を目指す三家族と彼らの案内役であるスティーブン・ミークの旅は、次第に過酷さを増していた。水の備蓄が尽きかけた一行の間にミークへの不信感が募り始めた頃、彼女たちの前に不意に一人の先住民が現れる。」(「解説」p.47『劇場プログラム』)

西部劇!けれど銃撃戦は全くなく、従来の男性中心の物語から女性の視点ーとりわけ女性主人公のエミリーーから描かれたものになっている。

ひたすら荷馬車を引いて移動する彼ら/彼女ら。旅の指針は男性たちが握っている。女性たちは、寝静まったころ、家事を淡々とこなしている。ミークも男性たちも旅の手綱を握っているにも関わらず、どこか頼りない。対して女性たちの再生産労働がなければ彼らは生きることができない。この雄大な西部劇の男性性と後景にあった再生産労働≒シャドーワークを可視化させたのは、ケリー・ライカート監督ならではだろう。

途中で現れる先住民。彼の発する言葉は、登場人物たちにも観客の私たちにも分からない。このディスコミュニケーションの様は不安になる。だけどエミリーは、彼を信じ、手を差し伸べる。この行為は他者を〈私〉に簒奪させず、他者性をあるがままにすることと読み取れる。そしてこのことは現代にも通じる大切な行為のように思える。
けれど、それは危険も伴う。理解が途絶える不安定な他者に旅の行方を委ねること。三家族が「理想郷」に辿り着くことを願いつつ、それが蜃気楼であると思えてならない。

エミリーが銃を乱射するのは爽快で、自然美も美しく、観れてよかった。

蛇足
やはり劇場プログラムの「解説」と柴田元幸さんの作品評が素晴らしい。
第二次ブッシュ政権の有り様を重ねてあることを知る。だから西部劇でもありながら現代にも通ずるテーマが浮上するのだと思った。