不在

ミークス・カットオフの不在のレビュー・感想・評価

ミークス・カットオフ(2010年製作の映画)
4.2
冒頭に旧約聖書における創世記からの引用がある。
神は知恵の実を食べてしまったアダムとイヴをエデンの園の東へと追放し、罰として労働や出産の苦しみ、男からの支配、そして死を与えた。
本作の登場人物たちは、厳しい試練を乗り越えながら、西へ向かって旅を続ける。
この映画は罪を背負った人間たちが、エデンの東から楽園に戻ろうとする話なのだ。
やがて一行は実の成っていない一本の樹を見つける。
そこで恐らく彼らは、自分たちがかつて知恵の実を食べたアダムとイヴの子孫であることを思い出したのだろう。
何が良くて、何が悪いのか。
誰が正しくて、誰が間違っているのか。
善悪の判断を自分自身で下せることを思い出した彼らは、先住民を信じることにしたのだった。

そして本作は常に男性側から語られる西部劇の伝統を打ち砕き、同時に聖書の神話すらも書き換えていく。
労働の苦しみを与えられた男達が実際に働いているシーンは極端に少なく、男からの支配を課せられたはずの女性が男達の上に立っている。
さらにはアダムとイヴをたぶらかし、知恵の実を食べさせた蛇としての役割を担う先住民が一行を導き、楽園に連れ戻そうとするのだ。
そういった中で神はどう描かれるのか。
聖書の内容を反転させているとするならば、無事に楽園へと戻った彼らは生命の実にありつき、永遠の命を得ることとなる。
つまり神が人間を赦すのだ。

ライカートはアメリカ人が深く信仰する神話を解体し、そこからの解放を試みた。
古い言い伝えに縛られ、隣人を疑い、憎しみに苦しむ人間たちを、神は一体いつ赦すつもりなのだろうか。
不在

不在