ShotaOkumura

ミークス・カットオフのShotaOkumuraのレビュー・感想・評価

ミークス・カットオフ(2010年製作の映画)
3.6
最近はアキ・カウリスマキ監督か、このケリー・ライカート監督作品をちょこちょこ観ていまして、AIが映像を生成してしまう時代に、なんかこう人間の哀愁というか、そういったものに思いを馳せているというか、なんか人生に疲れて来たんですかね…。
まあいいとして、ケリー・ライカート監督作品は、はじめに『ウェンディ&ルーシー』そして『ナイトスリーパーズ』『オールドジョイ』『リバーオブグラス』と観て、そして今作『ミークスカットオフ』です。

アメリカ開拓時代に楽園を求めてやって来た移民たちと、案内役のミーク。
しかし2週間で着くと言ってたはずなのに5週間かかったり、やたらと武勇伝を語ったり、なんだか信用ならない男。徐々に仲間内で不信感が募り、ギクシャクしてきた頃、不意に原住民の男が現れてとらえることになる。物語は言葉も文化もわからない彼をめぐって広大な大地を彷徨っていく。

さて、ケリー・ライカート監督のほとんどの作品に共通するモチーフは"旅"である。旅は映画であり、映画は旅なのです。
その行先に何があるかは行ってみなければ分からず、常に不安がつきまとっています。
旅する移民はキリスト教の信徒でもあり、聖書を朗読する場面も出てきます。
突如現れたインディアンは言葉も文化もどんな人間なのかも誰にも分からないミステリアスな存在として描かれています。しかし、水も底をつきかけ、どこを目指せば良いかも分からない彼らにとって運命を左右する非常に重要な存在でもあるのです。
僕はふと聖書におけるヨブ記を連想しました。
敬虔な信徒であるヨブはことごとく不運な目に遭うけれど、神はなにも答えてくれない。しかしそれでもヨブは神を信じ続けるのです。
結局のところ人は信じたいものを信じるしかない。たとえ何も分からなくてもです。なぜ信じたいのか、そんな風に問いは自分自身に返ってきます。それが信仰の本質です。

他の方のレビューに、ラストは制作費が無くてあの形になったという裏話が書いてあったのですが、それを含めてなかなか面白いラストだなと思いました。
まさに神の導きともいえるかもしれません。
ちなみに僕は彼女が彼を見つめ、インディアンもまた彼女を見ていたとき、満面の笑顔だったらめちゃくちゃ怖いだろうなと思いながら観ていました 笑
全てを委ねるしかない、しかしもし自分たちの選択が間違っているとしたら…。
古来からずっと変わらずに人間にまとわりついている根源的な不安ですよね。
今の時代、スマホもあるし、ちょっと調べれば答えらしきものをすぐに知ることができます。しかしこうした何も分からない不安に晒されるとき、人は何かを試されるのでしょう。そんな瞬間もまた人生には重要な場面なんじゃないかなと僕は思います。

あなたならどうしますか?
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