紫のみなと

私の男の紫のみなとのレビュー・感想・評価

私の男(2013年製作の映画)
3.9
公開当時、映画を観たあとに原作も読んでみたのですが、やはりテーマが個人的に共感もできないし想像もできないので、気持ち悪い印象が強かったです。
が、久しぶりに再見すると、テーマへの嫌悪感も特に湧き出てこなくて、ひたすら俳優の演技に見惚れることになりました。
とにかく、二階堂ふみさんはこんなに凄い女優だったんだなと。主演作は何本か観ていますが、何故か今回、特にそう感じました。

分厚い前髪とメガネと紅いほっぺの中学時代、一見無垢でありながらねっとりとした本能を醸し出して道の真ん中で浅野忠信にキスをせがむシーンはかなり印象に残ります。

浅野忠信演じる淳吾の彼女役を、とても綺麗な女優さんが演じていますが、その彼女に対する、まるで威嚇に近い二階堂ふみの絡み方がほんっとに絶妙で、淳吾の彼女自体は女らしく年齢的にも淳吾の彼女として相応しい人ですが、敵がこんな娘だと、なんともならんなーと苦笑するしかないほど二階堂ふみが圧倒的。異様な世界観の中で唯一普通の女性として登場するこの淳吾の彼女の役柄が非常に切ない。
浅野忠信は、この淳吾という男を他の役者に代替えは無理だろうと思う様な適役で、10歳の花を引き取り若い父となった姿から、飲んだくれの中年になるまでを色気たっぷりに演じていました。

誰も触れない2人だけの国というのは結局、何処にも辿り着けない。いいとか悪いとかじゃなくて宿命という様な男と女の関係を描いた現代の日本映画として、鑑賞後も心から消えない何かが残るのはこの2人の存在があったからだと思います。

小説の映画化として成功しているかといえば、ちょっと違う気もしますが。また、震災を扱うというのはとても難しいとも感じました。