半兵衛

天狗飛脚の半兵衛のレビュー・感想・評価

天狗飛脚(1949年製作の映画)
4.1
市川右太衛門演じる元相撲取りが人並外れた走力を持っていることから飛脚となり、走ることで様々な活躍をしていくという娯楽時代劇。どう見てもそんなに走れそうにない体型の右太衛門を走りの達人に仕立てるマジックに感動するし、なにより前半では主人公が走る描写を最小限にとどめてラストの大疾走シーンでドラマのアドレナリンが高まると同時にハイテンポな疾走場面を挿入し物語の終着点とランニングのゴールが一致して興奮の快感がもたらされる語り口が最高な秀作に。

山中貞雄監督の後継者と呼ばれた丸根監督だけにユーモアな場面や会話を随所に登場させ観客を片意地張らせずに映画の世界に誘い込むのが巧妙。主人公が働く経営が左前になっている飛脚屋にいる数少ない飛脚の三馬鹿トリオ(動きが一緒なのが可笑しい)、間抜けだけどやるときにはやるユーモラスな同心志村喬、マイペースな主人公市川右太衛門の飄々した演技もユーモラスで楽しめる。

右太衛門が健脚を初めて披露するとき、直接走る様子を敢えて出さず彼が次第に帰ってくるのを待っている店の人達のやりとりだけで彼が超絶的な走力を持っていることが判明していく流れが粋。

マキノ正博の『決闘高田馬場』ばりのテクニックを駆使した終盤のマラソン場面のカット割が素晴らしく、映画のアドレナリンをさらに高める。そして追っていた盗賊を捕まえんため勢い余って空を飛んでいく右太衛門の『はみ出しハイスクール水着』ばりの映画的奇跡に感動。

子役時代の津川雅彦、沢村貞子、加東大介といったマキノ一族をはじめ小杉勇、上田吉二郎、堀北幸夫(必殺シリーズで度々出てくる役者)、伊達三郎と脇役ファンならたまらない面子が続々と顔を出すのも見ごたえ十分。中でも単なる間抜けキャラだと思いきや終盤盗賊に脅されても飛脚としての意地を貫く原健策に胸が熱くなる、そんな彼を救わんとするため右太衛門がとった行動にしびれる。

志村喬が犯人を捕まえるとき暴力を使うのではなく自然体で近づいて「秘中の秘じゃ」といってスッと腕を掴むのがかっこいい。
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