MasaichiYaguchi

バーニー みんなが愛した殺人者のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.3
凶悪な事件を報道するニュース番組で、犯人についてその友人、知人が、「あんな真面目でおとなしい人が、こんな事件を起こすなんて信じられない!」とか、「きっと魔が差して、やってしまったんだ!」等のコメントをしているのを良く見掛ける。
完全な善人がいないように、完全な悪人もいないのかもしれない。
この映画は1996年にテキサスの田舎町で実際に起こった殺人事件を元に作られている。
ジャック・ブラック演じる主人公バーニーは葬儀社に勤め、丁寧な「おくり人」としての仕事ぶりや遺族に対する細やかな心配りで高評価の社員。
そして仕事だけでなく市民活動にも積極的に参加し、献身的に働いているので町の誰からも愛されている。
ある日彼は町の誰からも嫌われている大富豪で高齢な婦人マージョリーと知り合い、彼女に気に入られてしまう。
この二人は陰と陽のように対照的な存在だが、私には「愛」を求めてる点において「共通」だと思う。
バーニーは善行をすることにより多くの人々から感謝され、愛されることを生きがいとし、マージョリーは周りの人々に意地悪をすることにより、自分の存在を誇示し、人々に構ってもらいたがっているように見える。
だからバーニーとマージョリーとの出会いは運命的だったのかもしれない。
バーニーは寂しく愛に飢えているマージョリーに尽くすことにより生きがいを感じ、彼女の経済的豊かさを享受する。
一方マージョリーはバーニーによくして貰うことで、心が満たされ、愛を感じている。
だけど、そんな関係はどんどんエスカレートしていき、いつかは破綻する。
破綻の先にある悲劇。
後半以降は完全無欠に見えるバーニーの断罪劇が幕を開ける。
地元の人々の彼を擁護し、同情する声の数々を聞いていると、何が善で何が悪なのか、その境界線がぼやけてくる。
彼は善人の皮を被った悪魔なのか、それとも単に「魔が差した」だけなのか。
この作品で唯一、バーニーの善人面を剥がして犯罪を白日の下に晒そうとする地方検事のダニーがいる。
彼は露悪的なまでにバーニーを断罪しようと、あの手この手を繰り出す。
裁判で罪が決してもなお、バーニーを「善い人」だと信じ続ける町の人々。
カラリとしたユーモアの中で展開するこのブラック・コメディは、一見軽そうな内容のようでいて「人間の不可解さ」を見詰める辛辣な視点がある。