半兵衛

江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者の半兵衛のレビュー・感想・評価

3.1
屋根から部屋を覗く男とそれに気づいた女による異常な性宴とその果てが、舞台となる大正時代の濃厚な雰囲気とともに描かれるポルノ映画。そんな異常者の主人公二人を石橋蓮司と宮下順子が熱演しており、そのヒートアップぶりに更なる拍車をかける。ちなみに監督の田中登と石橋は『神戸国際ギャング』で一緒に仕事をしたことがあり、そのとき東映京都撮影所で不遇だった田中を見かねた石橋が「田中の本来のフィールドである日活で仕事がしたい」と声をかけて実現したのが本作だとか。

正直言って乱歩とエロの化学反応が思ったより薄めで面白みはないし江戸川乱歩というより脚本家のいどあきおによる「死に至るまでの性遊戯」という個性が前面に出ているけれど、『屋根裏の散歩者』をはじめ様々な乱歩作品から引用して一つのドラマとして整然とまとめたり、主人公たちが犯罪に平和で退屈な当時の言葉で表現するところのデカダンな心情をぶつけていくうちという乱歩作品の特徴をとらえているので文芸作品としてはそれなりの見ごたえが。

田中登監督の耽美な映像も冴えていて、序盤屋根から宮下演じる夫人と男の密通を覗く石橋に彼女が気付き、二人の目線が視姦のような熱気をともなってくるシーンは単なるポルノを超えた文学としてのエロスを醸し出す。そして屋根裏から漏れる光の幻想的な美しさ。

デウス・エクス・マキナのようなラストは反則気味ではあるが、それでも実際に起きたことではあるし何よりデカダンな大正の空間が文字通り消失していくことへの挽歌として見ればそれなりの感慨がある。

この時代の日活が得意とする四畳半空間をリアルな小汚さをともないつつ映画としての空間に変換したり、最低限のロケーションや小物で大正という時代を表現するスタッフの丁寧な仕事振りも見所。

ちなみに本作を鑑賞すると「人間椅子」は実現不可能なことに気づくはず。
半兵衛

半兵衛