半兵衛

宇能鴻一郎の濡れて打つの半兵衛のレビュー・感想・評価

宇能鴻一郎の濡れて打つ(1984年製作の映画)
3.5
映画監督のデビュー作品は作家の個性や特徴がよく表れているっていうけれど、金子修介監督のデビュー作品も例外ではなくて宇能鴻一郎っていう官能小説の作家の個性を生かしつつ漫画のパロディをあちこちに散りばめるというしっちゃかめっちゃかになりかねないことを映像テクニックと巧妙な語り口であっけらかんとやり遂げてしまうところに後年『毎日が夏休み』や『ガメラ』、『DEATH NOTE』といった漫画や荒唐無稽な作品を安定したレベルで実写で提供する職人ぶりの片鱗を感じさせるんです。でもやっぱり一番重要なのはオジサンの言葉で言うなら劇中で冴えないオタクに一番美味しいところを持っていかせる点で、私こういうのが映画ファンたちの心を掴んで注目されたんじゃないかと思うんです。

それにしてもいくらポルノだからってとんでもないエロな訓練の数々や男尊女卑な展開は今だったらありえないですけれど、これもそういう時代だったんだよなと呆れながら鑑賞してくれるとありがたいですし何より『うる星やつら』や『ミンキーモモ』の脚本を手掛けて三次元作品のコツを掴んでいる金子監督のコミックな演出によってアホな漫画を読んでいるような感覚になって許せてしまうんです。大体尊敬する人に「男はテニスに禁物よ」と言われているのに一分でそれを破っているんだから真面目に見てはいけないんです。

主役を演じている山本奈津子のぼんやりとした雰囲気がアニメチックな主人公によく似合っています(演じた山本本人は金子監督に「この役はどういう心情でこんな行為を演じているんですか」と真面目に聞いていたみたいですけど)、あとお蝶夫人のパロディのような役柄を演じている林亜里沙さんの振り切った演技も素晴らしくて思わず「お姉さま」と言ってみたくなるんです。でも肝心のテニスの腕前が一切披露されていないですけど、それを突っ込んだら負けだと思うんです。

最後に宇能鴻一郎をパロったような拙い文章を読んでいただきありがとうございました、それにしてもあれだけ高学歴のインテリなのに「私~なんです」という文章が書ける宇能鴻一郎はやはり凄い作家なんだな。
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