Jeffrey

さらば箱舟のJeffreyのレビュー・感想・評価

さらば箱舟(1982年製作の映画)
4.0
‪「さらば箱舟」‬
‪冒頭、老人と少年が荷台を引く。盗んだ大量の柱時計を穴に埋める。蟹の形の貞操帯、性行為封印、カラーからモノクロへ。村から逃げる夫婦、催眠術、人殺し、彷徨い辿り着いた空家、亡霊、巨大な穴…本作は寺山修司がATG時代に残した三作目にして遺作に当たる。個人的に原田芳雄と山崎努の共演は激アツ。所で裏話を聞くと本作の撮影中に羽田沖で航空機逆噴射事件があったそうだ。沖縄に行く為、搭乗していた原田が臨時便で出発するも、何を勘違いしたかスタッフの一人が勘違いして原田が乗った飛行機が落ちたと話したらしい…そしてやはり寺山の体調は優れず、途中からは寝たきりだったそうだ…前作の田園に死すにも原田が出ていたが、やはり原田という役者は独自の映画手法をブレずに撮ってきた監督に愛されて来たんだなと思う。さて物語を話す前に本作がガルシアマルケスの百年の孤独を題材にしている事なんだが、完璧に寺山の世界に変わってる。だが、インスパイアはされてるんだろう…それは生々しい葛藤劇に現れてる。前作は故郷青森でロケし、今作では沖縄が舞台となっている。八十四年の作品だが、沖縄が段々と近代化して行く時代に沖縄の土俗や伝統、島の文化を持つ沖縄を選んだのには、理由がありそうだ。物語は百年村の地主、時任家の跡取り大作は少年時代に、村中の柱時計を盗み砂丘に埋めた。その村の時は彼だけの物になる。時は大作が当主になる時代、時任分家の米太郎の妹スエに従兄弟の捨吉が体を求むも、いとこ同士で生まれた子は犬の顔をすると言う迷信があり、スエの父はそれを許さず蟹の形の貞操帯で守らせた。そこから貞操帯を外すべく夫婦の誓いを立てた二人は様々な手段を使い外すのに懸命になる。それは大作を捨吉が刺殺し、逃亡し一軒の空家を見つけ寝て覚めたら自分家と同じ場所で覚めたり、夢でチクザという少女の裸を見れば貞操帯を外してくれるはず等、不思議な話へとなる。で、大作は亡霊になり、捨吉にまとわりつく。村には日に日に大きくなる穴が出現し、それは冥界への入り口になり、村人は死人に手紙を書き、郵便配達の人を送り込む。一方で捨吉は徐々に記憶を無くし、様々な物の名前を忘れ、札にその名を書き貼る。遂には妻スエにも札を貼る始末に…かくして捨吉とスエに起こる悲劇が続く…これ以上はネタバレになる為、伏せるが中々の映画だ。まず、冒頭から時計を始末した時点で時任家が時間を支配する構図になる事が分かると同時にいかに複雑な幻想を齎すかも察しが付く。時間を支配すればそれは無時間の混乱を手にする事になるし、穴の意味が正に物語る。生と死を共存させる時間、ラストの村人達が記念写真を撮るシークエンスで全てが明快になる素晴らしい大団円だ。それはまるで寺山さんが最後の記念に穴に持って行く写真の様に見えて涙した。さらば箱舟、さらば寺山修司…。現代を生きる我々は生で過去に生きた先人は死なのか…色々と考えさせられた。個人的に印象を残したのは劇中の闘鶏は凄い。変わらずの緑の画面に、チグサ役の高橋ひとみが若くエロい。ショット毎の幻想感と蠱惑性が堪らない。前作同様に時計は象徴として扱われる。エキストラを使っての儀式をする場面の民族性の表しか、何かはインパクトがある。‬ ‪さて、久々に三作品を観たがATG以外のボクサー、草迷宮も素晴らしいので、この機会に是非観てみては…あゝ、荒野も映画化したな。‬
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