うめ

ウォールフラワーのうめのレビュー・感想・評価

ウォールフラワー(2012年製作の映画)
3.4
 1999年、アメリカの青春小説としてヒットした原作を作者のスティーブン・チョボスキー自身が映画化した作品。ある過去を持つチャーリーが高校に入学してから、最上級生のパトリックとエマの兄妹やその友達と出会い、過去に引きずられながらも様々な経験をしていく青春ストーリー。

 チャーリーとパトリックとサム…3人の演技が見事。彼らがいなければこの映画は成立していないと言っても過言ではない。パーシー・ジャクソンでお馴染みのローガン・ラーマンは、チャーリーの内向的で寂しい雰囲気を出しているし、エマ・ワトソンは奔放だけれど優しいサムを魅力的な女性としてしっかり演じている。だが、何よりも印象に残ったのはパトリック役のエズラ・ミラーだ。『少年は残酷な弓を射る』の演技がかなり強烈に頭に残っていたのもあるが、今回もころころと表情を変えて、サム同様に奔放である一方、ゲイであり、恋人とうまくいかないことに悩む青年を演じ切っている。まだ若い3人の俳優だが、今後の活躍が楽しみな3人だ。

 原作も今作もまさにアメリカの青春を表しているからこそ、非常に支持されたのだろう。スクールカースト、恋、音楽、パーティー…皆が集まって楽しむ日々が続く一方で、恋愛や進学などそれぞれの問題を抱えている。そうしたお決まりの青春ストーリーを、幼き頃の過去を背負うチャーリーの視点で描くことで目新しさが少し生まれているような気がした。パーティーでもダンスに参加せずに壁にもたれかかり、皆を観察する傍観者「ウォールフラワー」であったチャーリーが、パトリックやサムに引っ張られる形でパーティーの輪に入ったとき、楽しさと同時に押し寄せる過去、それと共に形成された「自分」…それらと向き合ったチャーリーが辿り着いた「無限」には、若さと未来への希望が感じられる。

 しかし全体的に演出がストーリーを盛り上げていないのが残念。それぞれのシークエンスが全体として見たときに、統一した物語を編み出していないのが問題だと思う。それは映像の所々に抽象的なカットを挟み込んだせいか、それともシークエンスごとに重要なカットやシーンが抜け落ちている(省略されている)せいかよくわからないが、スムーズにストーリーが入ってこなかった。やはり小説として言葉で作り上げるのと、映画として映像で作り上げるのでは方法が異なるのだろうなとなんとなく感じた。

 アメリカ的な青春なので、いまいち共感できない部分があるかもしれないが、誰しも通る思春期の心の揺れ動きを捉えていることは確かなので、自分の思春期を思い出しつつ観てみるといいかもしれない。…しかし、思春期じゃなくても、パトリックのような人との出会いは大事ですね。
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