ヨシイコウタ

ウォールフラワーのヨシイコウタのレビュー・感想・評価

ウォールフラワー(2012年製作の映画)
4.3
良かった。まだ一回観ただけだから細かいところについて深く考えることはできないけれど、後味がとても良いです。エンドロールが流れきって、メニューに戻ったとき、そこで繰り返し流れる音楽が浮遊感のある余韻に好きなだけ浸らせてくれる。個人的に最高の演出でした。

今音楽について触れましたが、この作品は中身でも音楽と深く繋がっているなと感じました。そのときかかる音楽がそのまま引用されていたりして面白い。さらに曲が良かった。特に浮遊感のあるきらびやかな曲が数曲流れていましたが、そういうのが個人的に好きということもあって入り込めました。聞いていると、目の前に柔らかな夜が広がり、ぼやけた街灯の光が地上の星となって優しく自分を包んでくれるような、何とも言えない幸福感が味わえます。そういう音楽から得られる情景みたいなものがよく出てきていたような気がするので、そういうのが好きな方は楽しめるんじゃないかなと思いました。「ナッシング」も最後の最後で出てきて、もう一回観たいと思わせられました。

ストーリーについては、まず僕が日本の高校に通っていたこともあり、実際どんな生活が送られているのかわからないためリアリティの有無とかについては何も言えませんが、人と人が心を通わせていくその描写は好きでした。チャーリーの心に湧くみずみずしい感情は、どの国にいようが経験できるものもあるから感情移入できる部分もあると思います。

エズラ・ミラーは「少年は残酷な弓を射る」で観て以来でしたが、それとは全く違うキャラクターでした。こういう気丈で明るい人物もはまるんだなとちょっとびっくり。ストーリーの中ではその気丈な振る舞いの下に痛みが隠されていて、考えさせられました。

叔母の話は正直言ってよく分からなかったというか、チャーリーにどんな影響を与えているのかがうまく掴めませんでしたが、総じて良かったなと思います。何よりも音楽が良かった。また観たいと思える作品でした。

蛇足ですが、トンネルを抜けていく描写などからPajaro SunriseのMinoltaという曲が思い出されました。PVもまぶしくて好きな曲です。


追記
映画がとても良かったので、原作(田内志文訳、集英社文庫)も買って読んでみました。装丁はクソほどダサいですが、中身は映画以上に濃くてあっという間に読み切れました。とても読みやすい文体だし、映画で描かれていないところも細かく描写してあったりして飲み込みやすかったと思います。特に、映画ではほとんど描かれていなかった(気がする)ビルが貸してくれる本についてしっかり記されていたのが面白かった。どうやらそれらは原作者のスティーブン・チョボスキーが若い頃実際に読み、影響を受けた本であるらしいので、そこに興味がある方は本も手に取ってみると面白いかもしれません。