陪審員を題材にした作品では、
『十二人の怒れる男』(1954)が有名で名作ではあるのですが、
『十二人~』のラストが割とスッキリと終わるのに対して、
こちらの方はモヤモヤが残り、
鑑賞後により深く考えさせられる作品になっています。
そして陪審員一人一人の生活描写がよく描かれていて、
そこにも多少のサスペンスが生まれたりするのがいいですね。
そして、その描写が評決に大きく影響してくるところもうまいです。
安楽死は殺人なのかというテーマが重いです。
被告の女性は苦しみを長引させたくないために被害者との約束の元実行したと言います。
生死を操ることができるのは神だけだという主張で安楽死は殺人だと主張する者。
約束の元慈悲の心で安楽死を行ったのであり、そこは情状酌量を認めるべきだと主張する者。
観客の視点からはどちらの主張も納得できるので評決の行方に関心が強くなる。
そして被告には別の愛人がいたという事実。
末期がんの被害者を安楽死させてその愛人の方についていくというのは、
道義的にどうなのか?
それが悪いと言い切れない陪審員もいるのです。
評決の結果はどうなるのかというのは本編を観ていただくとして、
すんなりと『十二人~』のような逆転劇にならないところが重いです。
『遺産獲得のための殺人なら軽すぎ、自由を犠牲にしても約束を守った安楽致死なら重すぎる』というモノローグで終幕となるのですが、
人が人を裁くという陪審員制度の問題点を鋭く突いています。
絶対の評決者はいないということです。
いい作品です。