ミシンそば

裁きは終りぬのミシンそばのレビュー・感想・評価

裁きは終りぬ(1950年製作の映画)
4.0
「哀れなるものたち」も明日観れないことだし、来週も4~5本くらい金獅子賞受賞作品を観ようと思います。
それにしても金獅子賞受賞作を意識的に観ようってなって気付くのは、もうすでに結構、観れる作品は観てるな、と言うことでした。

戦前は弁護士で、社会派監督として名高いアンドレ・カイヤットが監督を務めた本作は、ヴェネツィアで金獅子賞を獲っただけでなく、ベルリンで金熊賞も獲ってる超欲張りセットだ。
別段、複数の映画祭でグランプリを獲る映画は珍しくもないだろう(「パルプ・フィクション」だってそうだ)が、三大映画祭の枠組み内ではこれと「恐怖の報酬」しかないだろう。
恐らく、「十二人の怒れる男」以前の、陪審員を主題に据えた法廷群像劇の傑作と言っていい面白さを宿している。

陪審員の性格はエゴ丸出しで手前勝手で、映画的な面白さとは反比例的に誰も好きにはなれない。
客観的な視点を持っている者もいるし、恣意的な視点で臨む者の存在も不快なノイズにはなっていない。
被告であるエルザや、彼女によって安楽死したモーリスの家族(出てくるのは妹だけだが)、安楽死に対する医学的な視点、エルザの私生活を知る複数人、あと正直客観的視点を持っているか疑わしい感じの裁判長、登場人物は凄く多いし、公正な立場で判断を出来ている者もそれなりにいたが、それでも各人の心の背景にエゴが見え隠れするのは分かるし、カイヤットは本作を娯楽に落とし込みつつ、そこのところを意地悪に指摘しているようだった。

結構好きな群像劇だし、扱う視点もクラシック映画でありながら古臭くはない。
カイヤットの視野の広さを感じさせられる映画でした。