利休の半生を妻が自叙伝的に語る形式の作品。
利休に関する文献からだと本当に上辺だけを掬って取ったような内容だが、彼の追い求めた「美」というものをテーマに絞る事で密度が増してますね。
シナリオよりもスクリーンに溢れる美術的要素が素晴らしく、テーマの「美」というその名に相応しい。
撮影やカットはピアノ曲を中心とした音楽も伴い西洋的な印象で、悪くなかったですね。
利休の妻演じる中谷美紀の慎ましさや表情や声のトーンが素晴らしく、視聴者を引き込む。
また、市川海老蔵の所作の美しさも相成り、茶道を超えたところの日本精神のコアに近づいていて息を飲む。
茶道の世界はよく宇宙とか時間というタームで形容される事がありますが、それらが上手く作中で活かされていたと思いますね。
「美しさ」というのはそこにある「命」を感じることである、というのは茶道に限らず、芸術の世界でも語られる事だが、これを利休を以て一つの映画の中に収めたというのは素晴らしい事だと感じましたね。
個人的に、日本的美術の感性を海外の方に知ってもらうにあたりお勧めするなら溝口健二の映画が一番だと考えますが、今作も悪くないでしょう。
日本の精神とは時間や空間のミニマリズムにおける非物質主義から成る双方向のコミュニケーションであり、つまり茶の世界はまさにそれを体現したものなので、そうした文化的遺産に触れるに良い作品だと思います。
結局「美」というものは個人の究極的な目的地である。利休が今生きていたなら今の社会を見て何を思うか、といった事に思いが馳せますね。
なかなか奥ゆかしくも素晴らしい映画だと思いました(・∀・)