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選挙2のarchのレビュー・感想・評価

選挙2(2013年製作の映画)
4.3
ドキュメンタリーの続編って正直どうなのかって思うことがある。続編というのは基本的に1作目に対して批評的で相対的な視点で語られるべきだからだ。その理由は色々あるが、一番はそれが1作目を活かすことになるからだ。
(大枠では同じことを連続して、前作ファンの欲求を満たすタイプのは除いて それはそれでいい)
そういう意味でドキュメンタリーでは難しいのかなぁと思った。『演劇Ⅱ』はある意味同素材(同期間の撮影素材)の再編集版のようであり、あくまで続編というかは表裏という体裁だったので、今回の山内氏の再選挙という題材は、同じことをただ繰り返すだけの作品になりかねないのでは?と思ってた。
ただ蓋を開けてみると、本作はとんでもなく批評性があり、見事な続編だった。
本作は『選挙』によって内幕を暴かれた"選挙家"(敢えて政治家とは言わない)達がどう反応を示したのかを捉えたドキュメンタリーであり、その筆頭として山内氏が、かつて政党の数合わせでしかなかった傀儡が怒りに燃えて「逆襲」に打って出る作品になっているのだ。造り手が批評的な視点を持ち寄るのではなく、被写体が批評的な視点で反省し、動き出している。そうすればドキュメンタリーは「続編」を可能にするのだ。個人的には納得した。


山内氏は前作『選挙』では数合わせの傀儡、システムに飲まれていくつまらない凡人といった印象だった。彼の取り巻く体育会系な状況に同情もしたが、そこに甘んじて最後まで行ってしまうのだからただの被害者って訳でもないと思っていた。
しかし彼本人がその形骸化してゲームになっている選挙に一石を投じてやろうと無所属で出馬する。これは凄い事だと思う。後の前作を観た他候補の反応が色々と映される訳だが、その中でもちゃんと『選挙』にあった警鐘を受け取っていたのは山内氏だけだったのではないか。
彼は国民の税金負担である選挙費を削減して、街頭演説も最終日に限定し、とことん選挙の慣習に反逆を示す。基本的にはポスター貼りとハガキ書きしかしていないし、マニュフェストは細かく見ずらいし、誰が見ても効果的じゃない愚策ばかり。ただそこに見え隠れする理念だけは前作では適当に曖昧な政策を並べてただけの男とは思えない力強さがあった。

子供がいて、明確に「次の世代」に負債を残さないように脱原発をマニュフェストに掲げる彼は、その公約の是非は置いておいて、前回の言われたことをやるだけの男ではなかった。その傍らにはなんも分からずはしゃいでいる子供がいて、だけどそんな子供の為に頑張ってだなぁと、ちゃんと国民とか市民とか漠然とした対象ではなく「子供」という対象がちゃんと具体的に掴めてるんだなぁと思えたのが、ひとつのサクセスになっていて良かった。
1作目の最初の引きのショットと対比される本作のラスト。周りには相変わらず人はいない。演説を聞いている様子はない。だけどそこには傀儡の男の姿はなかったように思う。


また本作は性質上山内氏だけでは間が持たない為、他の候補にも視点が向けられる。彼らは『選挙』を知っている。自分の選挙区でかつて内情を暴露した"脅威"となるドキュメンタリーを作った想田という監督を知っている。
反応は様々で想田監督の別作品を面白かったと気さくに話す人もいれば、選挙制度について愚痴をこぼす者もいる。一番は面白かったのは撮影を拒否し高圧的な態度をしてきた者だ。ちゃんとあの映画で嫌な思いをしたのだなぁというのがわかるし、カメラの加害性をビシバシ感じているのが良かった。実際ああやって無許可でカメラを向けることってかなりグレーではあると思うので、100%想田監督側にはつくつもりは無い。
改めてドキュメンタリにおいて、無許可で撮影していいのかを考えてみる必要を感じた。
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