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もうひとりの息子のchi6cuのレビュー・感想・評価

もうひとりの息子(2012年製作の映画)
4.0
イスラエルとパレスチナの家族に起きた、出生時の息子の取り違え。某大ヒット日本映画を思い出さざるを得ない内容ながら、両家の苦悩はそれの数十倍。
冒頭から想像もできない家族たちの心の混乱に、共感できるほどの知識も経験もないくせにどうしようもなく泣けてしまった。

18歳まで大切に育てた息子たちは、隣国であり敵国の血をひいていた。
塀で分断された互いの国は貧富の差も大きい。
特に、パレスチナ側は敗戦国で領土を奪われ、憎しみも深い。
自身たちの砕かれた誇り、苦しい生活、その全てをイスラエルを、ユダヤ教徒を憎む事でやり過ごしている。
一方、イスラエルの家族は比較的裕福。
アーティスト志望の息子は、兵役のため父の所属する軍隊に志願。その血液検査で取り違いが発覚する。
両家の両親が病院で顔合わせをし、写真を交換し、父親同士は折り合いが合わず、母親同士は徐々に仲良くなり、両家を行き来するようになる。
このプロセスが某日本映画と全く一緒で驚愕した。
きっと、世界的に起こっている事案なのだろう。
どの国も、当事者たちの最初の悩みは一緒である。
絆か、血か。
子供にとって、最良の選択とは。

それにしても18年間である。
少年たちはすでにお互いの生き方を選択し、自立しかけている。
18年間の生活。仲が良く、深い絆で結ばれた家族。
それでも揺らぐのは、やはり敵国の血、そして宗教である。
パレスチナの少年の兄は、ユダヤ人を心から憎み家族にもその考えを強要する。
イスラエルの少年は熱心なユダヤ教徒だったのに、ラビに「君の血は正当なユダヤ教徒ではない」と言われてしまう。
宗教って結局なんなんだろう?と必死で考えた。
生まれて、育って、信じてきたものが、血が違うからと弾き返される。
信仰と血とはそんなに密接に関係しているものなのか。
隣国の子供の血はそんなに汚れたものなのか。
宗教学には興味があるが無宗教の私には彼らの宗教が争いを招いているとしか思えない。
だが、この映画の素晴らしいところは、戦争、宗教、貧富の差というあまりにも大きな困難を、とっても小さな小さな歩み寄りで少しずつ互いに解決していき、本当に、家族、個人単位でのふれあいから、二つの家族の間にも絆が芽生え、希望を見出しているところだった。
とても、とてもシンプルに。

世界は、結局人間で構成されていて、幸せになるのも、不幸になるのも、争うのも、歩み寄るのも人なのだ。
想像もできないような混乱と不幸から、少年2人は自分のルーツをたどり、自分の未来を必死で考え、大人たちは必死で強要しないように努力する。
最終的には、自分の人生は自分で決める。
いい映画だった。
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