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レディ・チャタレーのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

レディ・チャタレー(2006年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

炭坑の村を領地に持つ貴族の妻となったコニーだったが、蜜月もわずかなままに、夫のクリフォードは第一次世界大戦に出征、戦傷により下半身不随となり、復員後は2人の間に性の関係が望めなくなる。その後、クリフォードは自邸で暮らすが、コニーは介護の日々の生活に閉塞感を強めていった…。

発表当時は猥褻文書と見なされた、お馴染みD・H・ローレンスの小説「チャタレイ夫人の恋人」の何度目かの映画化。
物語とカメラはチャタレイ夫人のみを追う。
女性監督の作品とあって静かな作品だが、繊細な女性心理を、主演女優が見事に表現するロマンスの秀作だ。
男性が望むエロを期待すると肩透かしを食うだろう。

女性を尊ぶ現代的な解釈とあって、本作は女性蔑視表現や修羅場が極端に少ない。
夫クリフォードは、上からモノを言って威張るタイプではなく、妻から介護を受ける身として、また性的不能で妻に喜びを与えられないことを「申し訳ない」と静かに嘆いている。
無口で静かに妻を見つめる視線が、優しくも哀しい。

夫は跡継ぎを作るため、コニーに男性と関係を持つよう強く勧める訳ではない。
「もし、君が良ければ…」というスタンスであり、妻コニーも「分かっているわ」というような割り切った態度である。
コニーは自分は「チャタレイ家を存続させるためだけの物でしかないと嘆く」ことがないのである。
貴族社会に生きる者なら、このくらい静かで大人であるべきだ。

そんな彼女が恋に落ち、男女の仲になるのは、チャタレイ家の領地で森番をしている男、オリバー・メラーズ。
偶然、オリバーの逞しい肉体を見たコニーは、まるでウブな小娘のような反応を見せる。
考えてみれば、貴族の親が決めたであろう結婚。
性の経験などほとんど無い上に、貴族とは違う生命力に溢れた労働者の肉体にコニーが惹かれるのは、当然といえば当然。
「こうなると思っていた」「私も」と、性の喜びを知る。
好奇心旺盛な眼差しで近づき、情事を終えた時の満たされた笑顔が魅力的だ。
苔むした暗い森が輝いて見え、劇中で唯一音楽が掛かる幸福感の演出も良い。

男性が好むであろう激しい性行為のポルノじみたエロスはないが、恥じらいながら行為に及ぶのが、見ているコチラが恥ずかしくなるほどエロい。
森で騎乗位に及ぶシーンのぎこちないコニーの腰使いは、イケナイと思いながらも自らを解放する喜びに満ちている。

オリバーとの秘密の逢瀬を重ね、性の喜びを知ったコニーは、次第に内面から輝くが、本作の夫はイラつきこそすれども、声を荒げることはしない。
妻を喜ばせることができない負い目があるため、気付かない素ぶりで静かに妻を見つめるのがいじらしい。

終盤、姉のヒルダと共にコニーは、夫との契約通りに跡取りを仕込む目的で旅行に出かける。
その相手の条件は、同じ社会階級で、子供ができたらすぐに身を引くことができる人物であること。
原作と同じだが、本作での夫クロフォードは、この一点にのみ夫として譲れない意地を見せる。

旅行の直前、コニーとオリバーの関係は、身分という障害を改めて意識し、一層燃え上がる。
これまでは、森番の小屋で愛し合っていたが、雨の中を裸で飛び出して泥だらけになって愛し合う。
女性が抑圧された時代においてその姿は自由と解放感に満ちている。
その後にお互いの裸体を花で飾り合う演出は、女性監督らしい可愛らしさが感じられる。

コニーは旅行中に、オリバーの子供を妊娠していることに気がつく。
その旅行中、かつてオリバーを裏切って出ていった妻が彼の元に戻る。
原作では戻ってきたオリバーの妻が、メオリバーとコニーが通じていることに感づき、世間に吹聴して回ったため、オリバーは森番を解雇されて2人は引き離されるのだが、本作ではコニーを愛したオリバーが、身勝手な元妻を追い返し、怒った家族がオリバーを半殺しに。
幸い、オリバーは一命を取り留めたが、もう森には居られないと、森番を止めて他で働くことにする。

一か月後、コニーが旅行から戻ると、夫は歩ける一歩手前まで回復し、新しい森番も来ていた。
夫の回復を見ても驚くばかりで、コニーは喜ばず、戸惑うばかり。
心はオリバーにあるのが分かる。
仕事を引き継いで立ち去ろうとするオリバーを、コニーは説得する。
「母の遺産で小さいけど農園を買うわ。夫とも別れて、貴方と暮らすの」と。
コニーの熱意にオリバーの心も動かされる…。

映画はここで唐突に終わるが、原作では夫クリフォードは離婚を承知せず、コニーはお腹の子供を心配して現在の生活を捨てることを思い切れないでいたが、屋敷を追い出される悲劇が待っている。
原作の最終章はオリバーがコニーへ宛てた手紙で終わり、彼女の想いや信念はこの映画ほど強くはない。

だが、自らオリバーとの暮らしを選ぶ決意が女性の自立を、さらに身分の差をものともせず、燃え上がる愛にコニーの芯の強さが感じられる。

女性蔑視の時代に、禁じられた性に目覚めるだけでなく、男性と同等に生きる権利をいずれは勝ち取ろうと誓う姿が新鮮。
極端にセリフは少なく、役者の仕草や表情で物語を読ませる文学的香りが漂う。
新たな解釈と繊細な表現に感心する。
巷の評価の低さに納得がいかない。
愛し愛される喜びが伝わってくる作品だった。
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