サマセット7

ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金のサマセット7のレビュー・感想・評価

3.7
300レビュー。
監督は「アルマゲドン」「トランスフォーマー」のマイケル・ベイ。
主演は「ブギーナイツ」「ザ・ファイター」のマーク・ウォールバーグ。

[あらすじ]
元詐欺師でスポーツジムの雇われトレーナー・ルーゴ(ウォールバーグ)は、鍛えに鍛えた筋肉にも関わらず、他者より抜きん出ていない現状に不満を抱き、一攫千金を目指す。
ステロイドの使い過ぎで性的不能になったトレーラーの同僚エイドリアン(アンソニー・マッキー)と、ジムの新人で薬物依存で前科者のポール(ドウェイン・ジョンソン)と手を組み、富豪の誘拐を計画するが…。

[情報]
「BAD BOYS」シリーズ、「アルマゲドン」「トランスフォーマー」シリーズなど、派手な爆発とノリ重視の独自の作風で、ハリウッド最高クラスのヒット作を連発しつつ、批評家からはお約束のように低評価をつけられる、マイケル・ベイ監督の作品。
今作は、日本ではビデオスルーとなった。

今作は実在の誘拐事件を基にした作品である。
恐ろしいことに、今作の理解を絶するエピソードのほとんどは、実話だという。

今作のストーリーは、誘拐事件を起こしたつもりが、次々と想定外の出来事が起こり、事態が悪化していく、というものである。
いわば、コーエン兄弟の「ファーゴ」のような作品なのだが、ファーゴが作中に実話と記載しつつ実際には実話でないのに対し、今作は、誠に残念ながら本当に実話である。

筋トレジムのトレーナーたち3人が犯人であるため、3者とも筋肉ムキムキであり、筋トレ描写が異様に頻出する。
主演のマーク・ウォールバーグは、今作のために7週間で体重を75キロから95キロに増やすトレーニングを積み、ボディビルダー顔負けの肉体を作り出した。「ブギーナイツ」出演時とは別人のような身体だ。
共演のドウェイン・ジョンソンは、言うまでもなくプロレスラーのため、凄まじい肉体を誇る。
アンソニー・マッキーは、「キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー」にてファルコン役でMCUデビューする前年の出演だが、これまた見事な肉体を披露している。

今作はマイケル・ベイ作品としては低予算の2600万ドルの製作費で作られ、興収8600万ドル。予算比では悪くない結果で、さすがはマイケル・ベイである。
批評家、一般層ともにさほど評価は高くなく、こちらもマイケル・ベイっぽいが、一部からは社会批評性を評価され、マイケル・ベイ史上最高傑作と評する声もある。

[見どころ]
犯人たち3人の、バカ過ぎる犯行の数々!
これが実話とは、空いた口が塞がらない!
演じる役者陣の迫真の演技!!本当にバカなんじゃないか、と誤解させるレベル!!
全編に漲る、突き抜け過ぎて笑えないブラック・ユーモア!!史上最低のタイトルに偽りなし!!
マイケル・ベイ監督作としては珍しく、明確な社会批評性あり!!

[感想]
脳筋バカたちによる、バカげた犯行の数々を、口をあんぐりさせながら追う系、実話クライムコメディ。
なのだが、全編休むことなく、ひたすら呆れ続けた後、エンドロールで改めて今作が紛れもなく実話であることを突きつけられると、もはや、薄寒いものすら感じてしまう。

マイケル・ベイ印の演出は、今作に関しては、控えめである。
スローモーションとか、並んで歩く男たちの背後で爆発とか、カーアクションとか、勿論「らしい」演出もあるが、監督作にしては少なめだろう。
一見いつものマイケル・ベイ作品同様ストーリーのリアリティラインがぶっ飛んでいるように見えるが、実話なんだ、これが!!

マーク・ウォールバーグ、ドウェイン・ジョンソン、アンソニー・マッキー、エド・ハリスなどなど、俳優の豪華さが凄い。
それぞれさすがの見事な演技を見せる。
特にマーク・ウォールバーグの全力クズ演技と、ドウェイン・ジョンソンの本気でバカそうな演技は、名演だ。

ひたすら陽気かつ軽薄に話は進むが、やっていることは理不尽の極みで、結末も爽快さとは程遠い。
マイケル・ベイ一流のユーモアも、エグ味が効きすぎて全く笑えない。
作品として面白いか、他人に勧められるかというと、首を横に振らざるを得ない。
ただ、あえての軽薄さも含めて、今作の社会批評的メッセージの一部、と考えると、案外凄い作品なのでは?という気もしてくるのだ。

[テーマ考]
序盤より、ルーゴは、アメリカン・ドリームという言葉を何度も口にする。
誘拐のターゲットとなるカーショウの言動や、ルーゴの通うセミナー主催者ウー(演じるのはケン・チョウ)の言葉も、成功こそが正義、という哲学を後押しする。
3人は、あくまで、「成功」という良きことのために必死に動いているつもりなのだ。最後まで。

今作は、アメリカにおいて古くから良きものとされてきた、成功に対する信仰を、痛烈に批評する作品である。

また、今作は、近年のアメリカで一定の割合を占める、いわゆる反知性主義を批評する作品のようにも思える。
トランプが大統領になるのは2017年からだが、2013年公開作品にして、恐るべき予見性があったと言えようか。
犯人の3人組はもとより、警察の対応も、理性や合理など、知性に基づくものとは程遠い。

今作のタイトルは、痛みなくして利益なし、というような意味の筋トレ用語のようだ。
筋肉トレーニングは、努力すれば必ず結果が出るため、とにかく生きていて前進している感覚が欲しいビジネスパーソンに人気があると聞く。

しかし、前進していればいいってものでもないのでは?と今作は問いかける。
「成功」などという幻影より、人には大切なものがあるのではないか。
ラスト近くの、エド・ハリス演じる探偵と妻の会話が印象的だ。

[まとめ]
意外と深いテーマ性を含む、マイケル・ベイ監督による一切笑えない、実録クライム・ブラックコメディ。
最後に1番唖然としたシーンを書こうと思ったのだが、どのシーンも唖然としたため、1つに絞りきれない。
やはり、今作のほぼ全てのエピソードが実話である、という点に、1番唖然とした、と言うべきだろう。