故ラチェットスタンク

ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金の故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

4.4
『アドレナリン』

私にとっての「マイケルベイ映画」は行動主義礼賛のお花畑マチズモ(言い過ぎ)映画だったのだが、今作を経て認識が改まった…かもしれない。

運と行動力だけはある素人たちがド壺にハマっていく地獄映画
行動主義アメリカの功罪を鋭く指摘する社会批評でありながら、主人公たちのボルテージをそのまま映像的文法に起こして立派に娯楽としての価値を屹立させている。

俳優の演技・カメラの動きを掛け合わせた正しく映像全体での「パフォーマンス」として目に映る。

マイケル・ベイ印が押された落ち着きなく常に動き回る画面と舞台全体をダイナミックに動き回る俳優陣たちが作り出す絵が、観客をキャラクターたちのテンションと否応なくシンクロさせていく。
凄まじい回数の場面転換、キャラ紹介にモノローグ、と少々過剰なまでに情報が手渡される中、プロットは前へ前へと引っ張られるが、このマッチョたちと一緒にいるとどうにも疲れが来ないので不思議だ。
彼らの圧倒的な「押し」でも対処しきれない閾値を迎えたあたりでようやく高熱に浮かされていることを実感し始める。

クライマックスにかけてのトラブル大喜利&畳み掛けで事態が度を越していたことにようやく気付く。と、同時に「過激なドラマ映画」が「アクション映画」へと変貌を遂げていく。

度を越したことを実感したからこその爆発力。「火事場の馬鹿力」という奴だが、「トラブルが積み上がった末のアクション」である点が非常に必然的。

全体の、「他者から奪い取っているだけな癖に自分で何かをした気になっている傲慢さ」、というストーリーも勿論良かったが、ドウェイン・ジョンソン周りの描写が一番印象的だった。

純粋無垢さが逆説的にマチズモに拍車をかけている。そして何より、「更生したと思い込んでいる」という顛末が恐ろしい。

作品全体サフディ兄弟の映画(どうしようもない悪人伝)っぽいニュアンスが強い。しかし身体的に不健康そうなキャラクターたちを描く彼らの作品群とは違い、今作はみんな健康体で(ステロイドとかもキメてたりしたけどまあ「強い体」ってことで許して)三半規管が強い。
そんな人物の中に入り込むので「自分が強くなったんじゃないか」と、ナイズされて洗脳されていくような感覚がある。(同調圧力?的な)

「バッド・ボーイズ2」なんかでもお馴染みの死体をぞんざいに扱う不謹慎ギャグが物語の文脈に沿って取り入れられていて好印象。
腹筋が割れて背筋が凍る、という唯一無二の体験が出来る。

「アンビュランス」鑑賞当時は「それ、いつまでやってんの?」とベイ監督の自己陶酔っぽさに少々冷めてしまったが、今作でこれだけ客観視していたのを見て、「心ない意見だったかな…」と思った。だが私は謝らない。(まだ納得してないんだからね!)

勿論、脚本を書いているエンドゲーム組(マルクスとマクフィーリーの水入らずコンビ)の功績は大きいが、ベイ監督のスタイルで総括されることで作品全体がより強く締まっている。その点に感動した。

脚本家と監督のケミストリーは時に凄まじい。
批評に沿った娯楽であれ。ド傑作!