えびちゃん

トラス・オス・モンテスのえびちゃんのレビュー・感想・評価

トラス・オス・モンテス(1976年製作の映画)
4.0
美しくて難しくて気持ちよく眠っちゃった。ポルトガルの山岳地帯トラス・オス・モンテスの山や川など美しい自然、青々とした草原や乾いた土地ががしがし心を掴んでいく。ストーリーはほとんど存在せずドキュメンタリー調だが、ファンタジックな表現もあり、時系列は脈略なくぶっとび…カメラに映る断片的なものをリレー式に映してるのかと思えばそういう法則があるわけでもなく脳みそ大混乱。
わたしたちの記憶は非常に曖昧で不確かだ。みる夢もヘンテコで脈略がないのにあたかも体験したような現実味があったりする。そういう、あやふやで断片的な人間の記憶や夢うつつの状態を、トラス・オス・モンテスに暮らす人々の営みに落とし込んで表現したのかな。
印象的なシーンはいっぱいある。お母さんの子どもの頃の体験に胸がいっぱいになり、鼻がツンとした。10歳で初めて会ったお父さん。何か言葉を交わして、そしてロバに乗って去っていってしまった。お父さんの姿がちいさくなって見えなくなるまでずっとずっと背中を見送りつづける。そこだけ音声がなくお母さんの記憶にわたしも入り込んで一緒にお父さんを見送り続ける。まるで「エル・スール」のように"ない記憶"が呼び覚まされる感覚。

アフタートークが素晴らしく有意義!柳原孝敦先生のポルトガルとスペインの国境あたりは隠れユダヤ人たちが暮らしていたというお話は非常に興味深い。小田香さんのかつてそこにいた人々の営み、生痕化石という考え方に興味があるというのは激しく共感。
お二方もこの作品よく分からなかった笑、とおっしゃっていて、わからなくていいんじゃん!と謎の自信を得たり。難解な映画むりに解ろうとしなくていいのね。
今回の企画は文化庁の助成とのこと。こういう映画体験のためにこれからもせっせと働いて税金を納めていきたいね。
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