むっしゅたいやき

トラス・オス・モンテスのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

トラス・オス・モンテス(1976年製作の映画)
4.5
アントニオ・レイス。

ポルトガル語で「山の向こう」を意味するトラス・オス・モンテスは、国土の北東部、スペインと国境を擁する州であった(現在の統治区分ではアルト・トラス・モンテス準地域)。
ドイツの詩人、カール・ブッセの詩では『山のあなた』に幸せを求めたが、同義の名を持つこの地は、土地も痩せた、厳寒の地域である。
本作はこの地域の山間部に位置し、過疎の進むとある村落に住まう人々の実情と、小さな物語とを綴った作品である。
二本の視点の異なるドキュメンタリーにストーリーテリングをミックスし、一本のフィルムに纏めると云った、極めて特殊な構成を持つ。

物語部に於いては、中国六朝時代の古典志怪書『幽明録』に見える、劉晨と阮肇の物語へのオマージュが見られる。
七代後の子孫と会う部分等も全く同じであり、レイス又はその近しい者が同書よりインスピレーションを受けたのは間違い無さそうではある。

ドキュメンタリー部に就いては、村落の自然豊かな暮らし振りを子供の目線でノスタルジックに画く前半、貧困と利便性の欠如、過疎を画くリアリスティックな後半とが纏められている。
村の古老が「我々の暮らしには、首都も、王朝の交替すら何も影響しない。それで良い。」と郷土愛を誇る一方、或る家族は貧困故に雪を食べ、別の老いた母は夜も明けやらぬ朝方、村を離れる子を乗せた汽車を黙って見送る。

細々と余喘を保っている村落の、存続の難しさを考えさせる作品である。
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