自分がひどく愚かで、なんでこんなに上手くしゃべれないのだろうとか、読めないのだろうとか、頭悪いんだろうとか思ってしまったら、是非この作品を見て欲しい。読書をする勇気とか、弱みを受け入れる優しさとか、そんなものが詰まってる気がする。ドイツ留学中にこの作品に出会って、スランプだった私はとても助けられた。読み書きの出来ない中年男性が、読書好きの老婆に出会って変わって行く話。なんだか妙に高尚？な感じがするが、そんな老婆が男に最初に読み聞かせるのは(ペスト)生々しいネズミと黒死病についての話だ。でくの坊の男はそれから頭に別の世界が広がるようになる。空想するのだ。言葉は旅。辞書を引き、単語から単語へと旅する。辞書は迷宮だ。これを見れば、ちょっと学ぶのが楽しくなる。オススメだ。

人の気持ちのわかる優しい青年に育った主人公Germainジャマニ？（ジェラール・ドパルデュー）。でも、小さい頃の母親や学校の環境が影響したのか、自分に自信がないし、読むことにも軽い障がいが出ている。学校で、本を読むことを学べるのに、主人公のいたクラスは、先生が、かれの読みのスキルを他の生徒の前で馬鹿にする。　もってのほかの環境に育って、これだけ人の心がわかる性格を保っていってるのはどうしてなのか？　どうすればいいのか？　子供の時は誰もがベストと言われる環境で育つわけではない。でも、なぜ、こうなれたのか？　なぜ？　この疑問が解けたのは「かれに置かれている周りの環境だ」と思った。

理解しあえる飲み友達はいるし、バスを運転している彼の良さを分かっているガールフレンドもいる。彼は友達作りが上手なんだなあ。その中で、人間が磨かれていってるんだなと思った。誰も彼のことを「バカ」扱いしていないし、彼は自分そのままでいて、彼なりの得意な分野を持っているので、友達が頼ってきている。 彼が彼として存在できる場所がある。そこがあるから、自分の持っている優しさがいかせたんだなあ。　だって、彼の持っている優しさを受けず、お節介だと思えば、それまでになっちゃうからね。

それに、新しく知り合った友達、９５才のマーガレットは以前、WHOで科学者として働いていて、アフリカの国々で貢献をしていた。初めてお互いに会った時、マーガレットはカミュのペストを読んで聞かせた。彼はゆっくり読んでほしいと頼んだが、このねずみの大群の光景に引き込まれ、想像力がましたようだ。自分の知らない世界を想像させてくれるのが読書だと。
ガールフレンドが、「マーガレット（Gisèle Casadesus ）の目の代わりになったら」という提案もいい。それに、納得し行動に移したことにより、マーガレット、ガールフレンド、Germainジャマニの世界がかわる。また、彼らが住んでいるコミュニティーの世界も変わってくると思う。
私の空想だが、Germainジャマニが仲間が集まるあのレストランで、読書会をしていることを想像し、マーガレットが全盲になりそこで、聞いている姿を考えた。マーガレットは毒親にかわって、新しい母親になり、ガールフレンドとの間にできた子供もいることを。
血縁家族で助け合うと言う概念でなく、社会の人々が助け合える環境がいい。

何気なく見たらものすごく良かった。
ふとしたきっかけで開かれる言葉と物語への扉。それはふとしたきっかけの積み重ねで子供時代に硬く閉ざされてしまっていたもの。全てがピュアで見ていて気持ちが良い作品。