うめ

アンディフィーテッド 栄光の勝利のうめのレビュー・感想・評価

3.9
 アカデミー賞関連作、鑑賞その12。第84回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を獲得した作品。テネシー州メンフィスにあるマナサス高校の弱小アメフトチームが、コーチのビル・コートニーによって立て直されていく様子を描く。

 スポ根作品ではあまり感動したことがないし、そもそも観ないことが多い私。スポーツ観戦もそれほどしないから、スポーツを観て感動したこともほとんどない。だが、今作にはやられた。終盤では、思わず涙を流してしまうようなシーンもあった。それは、白熱した試合の様子だけでなく、チームに加入している高校生にとって、アメフトがどれほど大切なものかという内面的な部分をじっくりと描いているからだと思う。

 今作は、チームの中でも3人のメンバーに焦点を当てて描かれている。一人目は、アメフトの能力があり大学からスカウトまで来ているが、進学のための勉強がなかなか思うようにいかない子。二人目は学校でも優等生で、高校を最後にアメフトをやめるつもりで試合に挑む子。三人目は事件を起こし、少年院に入っていて戻ってきた子。皆それぞれが、それぞれの悩みを抱え、アメフトをしている。チーム全体の変化よりも彼らの変化を描いたことで、より濃い人間ドラマ的な要素が増していたと思う。ただ個人的には、他のチームメートの声も聞きたかったなぁとは思った。

 また彼らの境遇を描き出すのに、言葉ではなく映像で説明しているのも良かった。ナレーションやインタビューで彼らの背景を説明しようと思えばいくらでもできるのだが、そこは敢えて街や住宅地、学校内の様子を写すことで言葉で語る以上の説得力を持っているように感じた。(ドキュメンタリーのこういう映像って本当に説得力がありますね…。)彼らがどういう環境で育ってきたのかを想像させる映像だった。特に驚いたのは、学校の入り口にセキュリティーチェックのポイントがあったこと。アメリカ社会をよくよく考えてみると、その必要性は理解できるけれど…少し複雑な気持ちになった。

 あとは何と言っても、ビルコーチの名言の数々。とてもいい言葉をメンバーに掛けていて、観ているこちら側もぐさっと来ます。一番ぐっと来たのは、「正しいことを諦めてやめてしまうと、周りから人も去ってしまう。だが、正しいことをし続けていれば、誰かが気づいて助けてくれる」という言葉。私は以前どこかで似たような事を聞いていて、今回改めて聞いて…やっぱりこの言葉を信じたいなぁと思った。すごく難しいことだけれど。でも実際、上述の3人がくじけそうになっても諦めずにアメフトをやり続けた結果が終盤に表れているのを見て、ますます信じようと思った。

 おそらくスポーツをやっていた、やっている方やスポーツが好きな方は、もっとのめり込める作品でしょう。そうでなくとも、コーチや3人の諦めない強い意志に惹き付けられるはずです。
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