ルサチマ

ブロンコ・ブルフロッグのルサチマのレビュー・感想・評価

ブロンコ・ブルフロッグ(1969年製作の映画)
4.4
特別演出が秀でてるわけではないけど、なんだか凄くいい。周りの光景を反射していると錯覚するほどまでに人間が個を捨て去りスクリーンのような存在として立ち現れる瞬間を年々見たいと渇望するようになってきたけど、今作はその願望に近づいてくれた気がしてとても好きだ。この願望についてもう少し細かく言語化するなら、景色の中に人間が自然体に溶け込んで収まるのを良しとすることでは全然なくて、むしろ人間が景色の中に身を置いたときに生まれる違和感をしっかり刻み込むことが重要だと思っていて、その意味において今作はそのぎこちなさを60年代後半のモノクロームで撮られたイギリスの光景に刻みつけた気がして感動する。
そもそもが明らかに喧嘩慣れしてなさそうな監督が撮影した不良映画なので、不良少年たちが皆中途半端な悪ガキレベルで、喧嘩のシーンもまるで痛そうじゃないんだが、それも空っぽでぎこちない若者の描写として機能してると思う。中身のない人間がバカスカ投入されつつ、まさに空からの景色を反射していくような存在として人物が立ち現れてる青山真治の『空に住む』に感動したように、最近は無理矢理現代的な人物の個を描こうとするよりも、空っぽであるということをそのまま提示する映画の可能性が残されていることにこそ現代映画は生まれる価値があるんじゃないかという気がしていて、イタリアのネオレアリズモ以降、60年代のイギリスで生まれた今作はそのぎこちない透明性の可能性を確かに感じさせてくれた。なんだかとても親近感が湧いて映画を見ていて久しぶりに嬉しくなった。
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