Eike

殺しのナンバー/スパイ・コード 殺しのナンバーのEikeのレビュー・感想・評価

3.3
諜報機関のエージェント、エマーソン(ジョン・キューザック)はある(汚れ仕事)でミスを犯し、イギリスの片田舎にトバされます。
与えられた任務はこの僻地にあるNumbers Station(乱数放送施設)で暗号コードを作成し放送する女性担当者キャサリン(マーリン・アッカーマン)の警護。
仕事は別のチームとの2交代制で必要に応じて世界の何処かでミッションに赴くエージェントたちに向けて暗号指令を短波放送を通じて送信するというもの。
時間が止まったかのような片田舎で淡々とした日々が過ぎて行きますがエマーソンは犯したミスによる罪悪感に苛まれており、明るく接してくるキャサリンとも打解けられずにおります。
そんなある朝、シフトの交代で基地局に着いたエマーソンとキャサリンを何者かの銃弾が襲います。
どうにか局内に逃げ込んでドアをロックした二人は何者かが局に侵入し偽の放送を流したことを知ります。
その暗号の内容を解析し、取り消すための新たなコードを作成できるのはキャサリン唯一人。
迫りくる敵を前にしてエマーソンは本部に救援を求めるのですがそこで本部から彼にある指令が与えられ…。

本作、アメリカ映画ではなくヨーロッパ資本で監督はデンマーク人、舞台はイギリスの片田舎ということでアメリカでは限定的な公開で終わった模様。
確かにアメリカ製の派手なアクションエンタメと比較すると至って低予算で地味な作品である事は否めない。

しかし、個人的に惹かれる点が多々あって楽しめた。
まず設定となっているNumbers Stationという実在する暗号放送局を舞台とした点に興味津々。
アメリカの諜報機関では現在は利用を停止しているようですが中国や北朝鮮、イギリスなどでは現在も稼働中(だそうです)。
短波放送を通じてアナウンスされる不規則な数字の羅列の向こうでどんなミッションが繰り広げられているのか…想像が膨らみます。
本作の冒頭で主人公がミッションのGOサインをこの放送を通じて受け取るシーンが入っており、それが後半、敵による偽の放送を通じた謀略を想起させる役割を巧く果たしております。

90分足らずの尺の作品ですから無駄は極力省かれておりますが空撮を生かしたイギリスの片田舎の風景が醸し出す空間描写もあって意外と小粒な印象にはなっておりません。
主人公たちが要塞のような局施設に逃げ込んでからはほとんど密室劇と化し、主演のお二人による二人芝居の趣が強くなります。
しかし救援を求めたエマーソンに本部が「ある指令」を下したことによって外(襲い来る敵)だけでなく内からもサスペンスが生じ、結果としてラストまでテンションは維持てきていると思います。
この辺りを詳しく書くと趣が削がれかねないので止しますがキューザック氏が主演であることの意味が生きてくる巧い展開だと思いました。
ただ、本来はイーサン・ホーク氏が主演の予定だったそうです。

そのキューザック君と言えば自身製作の「ポイント・ブランク」(1997)で諜報機関の殺し屋を演じておりました。
高校の同窓会に出席することで人生を見直し、新たな人生に踏み出すきっかけを手に入れる悩めるスパイ像はユーモアもあってユニークな作品でした。
考えて見れば本作のエマーソン氏はそのきっかけを得られぬままに年月を経たエージェントの成れの果てとして見て取ることもできそうです。
銃撃戦・肉弾戦も含めてアクションシーンも豊富な作品ですが印象としてはやはり「サスペンス映画」。
何より主人公が組織のルールと守るべきキャサリン女史との間で板挟みになる展開が巧く生かされていると思いました。
ラストのけりのつけ方も甘すぎずサスペンス映画として余韻も感じさせて好印象。
確かに低予算でムリな展開も目に付く作品ではありますが登場人物のジレンマや心情がちゃんと描かれているだけでもめっけものだと感じました。
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