井出

わたしはロランスの井出のネタバレレビュー・内容・結末

わたしはロランス(2012年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

冒頭のセリフは意味深だったので見返す。
年齢のサバを読むことが女性的に感じた。その時点で自分はジェンダーに対して柔軟、寛容じゃないのかもしれないが。
冒頭は彼女に刺さる鋭利な視線から始まる。この映画では、カメラと演者の目が合うことが多いと思う。特に、登場人物の主観としてカメラが撮られるとき、目が合うことはかなり珍しいのではないか。あるとしたら、人を殺すとき、殺されるときだとか(羊たちの沈黙、反撥…)ではないか。見ることと見られることと権力をフーコーは結びつけたが、それとも関係がある気がする。彼女は社会から逸脱、異常、病気という下位層に位置づけられるということだ。しかし重要なのは彼女自身、上の世界の住人だと最後、フレッドに向かって語る。そこの部分は興味深い。また初めて女性として学校に行くシーンは泣きそうになった。生徒たちの目を想像するだけで震えたが、受け入れるまでの時間、過程を沈黙でまっすぐ撮っているのは良かった。こういった、事に直面するシーンのときは、カメラは真正面から静かに向けられる。この視点は撮る側の真面目な姿勢と、他人事ではないと観る者に訴えているように感じる。絵画的か?とにかく、カメラを含め視線について注目することは、彼の映画においてかなり重要なのはことなのは確か。
ありきたりかもしれないが、色彩にもいろいろな意味合いがもたされている。特に赤の意味は大きい。情熱の色でも、途中では血の色でもある。車で色彩の話をしているとき、赤い服を着た人があるいていくのが雨でぼやけてみえることは、情熱が冷めていくことの予兆だった。髪の毛の色や服の色の使い分けで、沈静の青、拒絶、孤高の黒、安らぎの緑、なんでもない白、赤と青の中間の紫。紫は才能、フレッドの赤を自分に取り入れたなどいろいろな意味が考えられる。とくに服は監督にとって大事なことで、洗濯物を落としたり、洋服が降ったりするシーンは、幸せや愛の空間において行われる点で共通する。戦闘服でもあるのか。
水の意味は何だろう。雨、洗車、服を脱いでのシャワー、本を読む時の滝、カタルシスなのか、涙なのか、気分転換なのか。すべて言ってしまえば心の浄化ということなのかもしれない。ケーキのロウソクを消すシーンは水の光の屈折を利用して反転するロランスを撮っていて良かった。洗車はしゃべり、車で流れるクラシックと同じノイズ、混乱としての意味ももった。
光も大事だった。途中、間接照明を買いに行ったときの出来事やセリフは象徴的だったが、光が当たらなかったら内面だけ見てくれるはずなのにではなく、誰にでも光があたり、みんなが内面を見るようにすればいいというメッセージがあった。また光で言えばシャンデリアがあったが、彼女の出会いには必ずでてくる象徴物だった。色彩と同様、話の展開に役立っていた。テレビは人を無関心にする点で批判されていた気がする。
二人の葛藤を、アップで揺れながら撮ったり、違う場所にいるのに交互に写すことでお互いを想いあっていることを演出しているようだった。カミングアウトを映さないのはどういう意味が考えられるだろう。
音の使い方も効果的で、とくにロランスに手紙が届いてからの展開での音は、最初はロランスのパートナーの複雑な感情を気持ちの悪いノイズで表現しつつ、ロランスが手紙を見た瞬間から少しずつ、リズムや明るい音による調和が見られていく。別れるのが「運命」だった。
性同一性障害で同性愛者という設定は、多様な性のあり方を世間に教えてくれる点で素晴らしいと思う。この人を見よという言葉はゲイとしての叫びだったのだろう。フレッドは結局男としてのロランスがすきで、再会のときも下着と性器を確認した。しかしそのズレは、他の「普通」のカップルのすれ違いとなんら変わらないものだと思う。精神を病んでも付き合い続ける愛は、どんなカップルよりも深く、真剣であるとも思う。しかし、彼女らの出会いから言っていた通り、ロランスは男でも女でもなく「とにかくロランス」なのだった。そして逸脱者、はみ出し者に見える彼女らは、異端、スペシャルと普通を超越した上の世界におり、それが芸術の世界であった。凡人には理解できない領域だった。
赤ちゃんの泣き声からつわりがおこるが、赤ちゃんをおろしてしまった意味は考えようと思う。
銃乱射事件や教育省など、教育学にも使えそうな題材がある。
車内は二人が精神の上で密接に結びつく場所である。家などよりも自分をさらけ出すような場所の気がした。カミングアウトの場でもあった。車の意味も考えたい。再開後、ロランスを置いて走り去る車からの絵はなんだったんだろう。
家の壁、整然とした部屋に散乱する本の包み、リストに記す家具の配置のロランスによる変更など徐々にフレッドの中にロランスが入っていく感じはよかった。
フレッドが妹と母親に相談するときは、超自我とエスみたいだった。
タバコでストレスを表現するのはありきたりだが、冷凍庫から取り出して、料理のためのチャッカマンを使うところは素晴らしかった。
パーティーはどんな意味だろう。
ファニーとアレクサンドラ、ベルイマンか?
同性愛は世代によって受け入れ方が違うような気がした。
エゴの黄色のペン。
モナリザ
煙に消える
雨、予兆
ウインクの、自信
言葉、その人の言葉、イメージ
息子

話して一旦安らかに
やさしい、泣きそう
精神衰弱
精神の病、逸脱

世界観
お会計、ドアがしまる
運命
タバコ
パーティー
母と娘
水、涙、本
井出

井出