小波norisuke

楽園からの旅人の小波norisukeのレビュー・感想・評価

楽園からの旅人(2011年製作の映画)
4.0
取り壊しの決まった教会の礼拝堂から、磔刑のキリスト像がついた十字架が外されるシーンから始まる。長年教会に仕えてきた老司祭は、主の宮が冒涜されたように感じ、主の憐れみを求めて叫ぶ。

聖母像も聖画も取り除かれ、がらんとした礼拝堂に不法入国の移民たちが入り込む。この移民たちが礼拝堂を活用して、一時避難の場所として整えていく様子が、ぎょっとする方もいるだろうけれど、観ていて楽しい。ステンドグラスから滴り落ちる雨水を聖水盤で貯めて、ろうそくをかき集めて、雨水を沸かして産湯を準備する。聖歌隊の衣装をシーツに使う。

老朽化して役目を終えた主の宮が、この世の法律で罪人とされた旅人たちの避難場所として生き返る。教会の様々な用具をしまう小部屋で生まれる新しい命。新生児を見て、老司祭がうたうクリスマスの讃美歌が印象的だ。

このように主を礼拝するための宮や用具が、困窮する人々に用いられることを主は喜ばれるだろう。

生涯を神に捧げ、教会に仕えてきた老司祭が虚無に襲われる。善をなすために信仰の道を歩んできたが、信仰はなくとも善行はなせると。福音を伝えることが先か、困窮する人の必要を満たすのが先かは、教会が長く抱えてきたテーマであるが、どちらも必要なのだと思う。

神に近く、飢え渇くこともなかった楽園を追われた人間は、苦難の旅を続けなければいけないが、それでも天の楽園に行ける希望を持って歩むことが許されている。

オンミ監督の伝えたかったことをちゃんと理解できているかどうは心もとないけれど、いろいろなことを想起させられた87分。
小波norisuke

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