MasaichiYaguchi

最愛の大地のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

最愛の大地(2011年製作の映画)
3.4
アンジェリーナ・ジョリーの初監督作品は、セレブ女優としてではなく、長く国連UNHCRの親善大使を務めた人道支援家としての彼女の面がよく出た作品だと思う。
アンジーの映画だと油断していると、いきなり心にズシンと来る。
この作品は、1992年にボスニア・ヘルツェゴビナが独立宣言したことに端を発し、ボスニア人、クロアチア人、セルビア人が、民族間で3年半に亘り繰り広げた泥沼の紛争を描いている。
この紛争に関してはドキュメンタリーを観たり、ルポルタージュを読んであらましは知っていたが、改めて映像化されたものを観ると背筋が凍る。
日本は、遥か昔に「蝦夷討伐」という民族間の戦があったが、ほとんど単一民族である為、この作品で描かれた内容は、実感として理解し辛い。
ナチス・ドイツが、ユダヤ人に対し「民族浄化」の名の下で大量虐殺を行っているが、今から僅か20年前に、同じようなことが繰り返し行われていることに、人間の底知れぬ怖さや愚かさを感じずにはいられない。
本作では、対立する民族を夫々代表するような男女が登場する。
画家の卵であるボスニア人女性のアイラ、紛争前は警察官だったセルビア人のダニエル、この二人は民族が違っても、ロミオとジュリエットの様に恋している。
紛争勃発後二人は敵味方に分かれ、アイラは俘虜として収容所に入れられ、ダニエルは部隊長として彼女らを監視する立場となる。
ダニエルは愛するアイラを救おうと色々手を差し伸べるのだが…
戦局が激しくなるにつれ、セルビア人たちのボスニア人たちに対する締め付けは苛烈さを増していく。
果たして、この20世紀のロミオとジュリエットの愛の結末は?
紛争が起こっても、何年も介入せず遠巻きで様子見していたアメリカをはじめとする他の国々。
これらの国々がやっと重い腰を上げたことにより、紛争は鎮火の方向に向かう。
民族間にある、過去からの遺恨や認めがたい感情のもつれは、我々が思うより根深い。
アンジーは、この初監督作品で、この紛争の狂気や人が為した悪行を世界に告発している。