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最愛の大地のodyssのレビュー・感想・評価

最愛の大地(2011年製作の映画)
2.5
【アンジーは勉強不足】

20世紀末に起こった旧ユーゴ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの紛争では、虐殺や民族浄化と称したレイプが横行しました。それを素材にした映画です。

題材の重さは分かるのですが、アンジェリーナ・ジョリー製作・監督のこの作品、映画としてあんまり面白いとは言いかねます。その理由は脚本の単調さです。

虐殺やレイプと並行して、セルビア人の将校とムスリム系女性の愛が描かれている。そこはいいのですけれど、最初から最後まで二人の関係が続くのに、そこに多様さだとか複雑さなどの要素があまり感じられないのです。

作品の描いている時点では、セルビア人が加害者でムスリムが被害者である。しかしその関係が一定ではなかったことは、将校の父親が昔話をするところから分かる。第二次大戦直後はムスリムのほうが加害者でセルビア人が被害者だったのです。

ただ、そこからソ連解体・ユーゴ解体をへて、民族主義の高まりから旧ユーゴ内戦にいたるまでの道のりは複雑だったはずですが、その辺の事情はなぜかほとんど出てきません。父の世代なら旧ユーゴの指導者として長らく君臨したチトーへの評価もそれなりにあるはずですが、なぜか触れられていない。

要するにアンジェリーナ・ジョリーは勉強不足なのではないでしょうか。旧ユーゴ内戦での虐殺やレイプの悲惨さを訴えたいのは分かりますけれど、それを題材にして映画を作るなら、もっとこの地域の歴史を勉強して、それを映画内に取り込んでいかなくてはならない。単にレイプシーンや虐殺シーンを出せばそれでいいというものではないのです。歴史の複雑さをバックにしてこそ、民族主義の根深さや内戦の救いがたさがくっきりと、しかし重厚に観客の目と胸に迫ってきたはず。残念と言わなくてはなりません。
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