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最愛の大地のBuffysMovieのレビュー・感想・評価

最愛の大地(2011年製作の映画)
3.5
劇映画としては、今作が初監督作品となるのだが、実は2007年に『A Place in Time』という実験的なドキュメンタリー作品を監督している。『A Place in Time』は日本では未公開となっているが、どんな内容かというと、アンジェリーナ・ジョリーや彼女の知り合いであるアン・ハサウェイやジャイモン・フンスー、ジュード・ロウなどのハリウッドスター達が難民キャンプや孤児院を訪ねるというもので社会派なものであったが、セレブの自己満足や売名行為と言われ作品としては、あまり評価されていない。

アンジェリーナ・ジョリー自体がもともと、セレブの自己満足なんて言われ方をしてきているのだが、そんな雑音を跳ね除けての初劇映画。しかも今作も社会派な内容なのだ。

どれだけ自己満足などと罵倒されても、アンジーの描くものは、戦争の悲惨さやそれによって引き裂かれた家族や絆、子供たちが犠牲になってしまう環境などと一貫して社会派なものばかりである。

セレブがカメラを同行させて、国の抱える問題や悲惨さを伝えることに関して、批判する人は多いのだが、逆に開き直って、売名行為だとしても財力や知名度のある人が行くことで助かる人達は実際にいるということだ。日本でも3.11のボランティアとして名乗り出た人達の中には、税金対策だったり、売名行為だったりする人は実際にいたのだが、その人達の行ったことで実際に助かっている人は多いわけで、お金持ちだからやれるんでしょ…なんてネットで批判ばかりして何もしない人より全然良いのだ。

国連UNHCRの親善大使を長く務めてきた彼女のワールドワイドで個性的な視点がドラマチックでありながら社会派な作品を作り上げている。極端な話、元々の理由が売名行為であったとしても、アンジーの作品で心を動かされて行動を起こす人が少しでもいれば、それはアンジーの功績と言えるのだ。

少し脱線してしまったが、映画の内容に戻すと、正直言って今作は傑作である。とても初劇映画作品とは思えないほどのクオリティで、アンジーが監督していると知らないで観るとヨーロッパのアーティスト監督が撮ったのではないかと思うほどだ。

「昨日の敵は今日の友」という言葉があるが、今作で描かれるのは「昨日の恋人は今日の敵」状態である。紛争によって敵味方に分かれた男女の悲劇を描いた作品ではあるが、この2人の関係性が実に巧妙に作られている。

「恋人同士」といっても、実はそこまで長い付き合いではないのだ。そのまま付き合っていたら、結婚していたかもしれないが、別れていたかもしれない…そんな状態の恋人同士だったのだ。

この微妙な距離感は、2人の心情に大きく影響している。「愛しているから国なんてどうでもいいから逃げよう!」ではなくて、深い仲ではないだけに国の方針や使命感と恋心、緊張感が極限の状況下で常に揺れ動く心情がとても繊細に描かれていて、人間ドラマとして見ごたえのある作品だ。

「好き」だと言うことが許されなかった時代を生きるしかなかった男女の切なくも美しい悲劇はアート的でもありながら、2人の視線を通して紛争の悲惨さを巧妙に描いている。

アンジーの監督作品は、その後の『不屈の男 アンブロークン』や『白い帽子の女』でも微妙で繊細な心の動きを描き出すことに成功している。

『マレフィセント2』など女優業は、最近上手くいってないアンジーだけに、女優業よりも、監督として活躍する方が今のアンジーには合っている気がする。
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