ダンクシー

ウォッチメンのダンクシーのレビュー・感想・評価

ウォッチメン(2009年製作の映画)
4.0
「"暴力の果ては暴力に終わる" 奴は分かってた。"人間の本性は野蛮だと。どれだけうわべを着飾りごまかしても社会の素顔を奴は見抜いて自らそのパロディとなった"」

原作はDCコミックスですが、MCUやDCコミックスの映画のようにヒーローものを期待している人にとっては肩透かしを食らうだろう。ヒーローの話ではあるが、肝心の内容はあまりにも暗く、全く輝かしいカッコイイヒーローものではない。でも、雰囲気のダークさに心惹かれた。長くてダークでどこか現実的。もしもリアルにヒーローが居たらと言うのを突き詰めて考えて、そこに哲学的要素を組み込んでいるのが斬新だった。


ストーリーを簡単にまとめると、
覆面を被りコスチュームを身にまとったヒーローが登場する時代になり、やがて自警集団"ミニッツメン"が結成されるも、メンバーが死んだり精神がおかしくなったり引退したりで結局ミニッツメンは解散してしまう。そして彼らの後継として"ウォッチメンというチームが結成される。しかし、徐々に彼らを疑問視する人々が増え始め、反対の声や怒りの感情で溢れ返ってしまう。そして、ニクソン大統領は覆面を着けた者の自警行為を禁止するキーン条例を作り、実質ウォッチメンは非合法の組織になってしまう。ただ、政府から活動を許されたDrマンハッタンだけは特別だった。彼の力によってベトナム戦争などの歴史的事件が次々と解決していき、世界ではアメリカ一強となっていく。その影響でアメリカとソ連の関係は悪化し、今にも冷戦から核戦争へと発展しようとしていた。


なんとも面白くて社会に対する気持ち悪さを感じる作品だった。まず設定が超秀逸。この世界の特殊能力の使用は禁止されており、ヒーローは政府の管理下にあり政治の為の道具として使われる。ヒーローという存在がこうもちっぽけに感じてしまうとは。
確かに現実世界でマスクを被った正体不明の特殊能力者が現れたとして、それを素直に信じられますかね?どう見ても怪しさプンプン。ヴィランもマスク被ってコスチューム着てるなら尚更。

「彼らは"天国を作る"というがそこは恐怖に満ちている。世界は作られるものではない。どんな物もそうだ。職人なしで存在する時計だ。もう手遅れだ。ずっと昔から永遠に手遅れのまま何も出来ない」

この作品は、核戦争が起きるなら人類はどうするのがベストなのか?全人類が平和を享受するためにはどうすればいいのか?を訴えかけている。真実を知るべきか、知らないべきか、知っていても黙っているべきか、どの選択が人類にとって最も良いと言えるのか正解は分からない。多数の犠牲の元作られた平和は本当に平和と言えるのか?最後に投げかけられたこの問いを良しと捉えるか否かで結論は変わってくるだろう。とはいえど、人類は犠牲の元進化し発展してきたものだ。歴史の流れからは妥当と言えるしこの世界とはこういうものなのだ。かといって、それは自分が犠牲者じゃないから言える欺瞞であり、知り合いや家族が犠牲者なら納得できるのだろうか。あるいは正義や良心の心がそれを許すのか、未だに現実世界でも見つかっていない別の解決策を長い長い道のりをかけて見つけていくのか…。

「命を存続するためには沈黙を守ることだ」

この作品を、もっとややこしく複雑にしているのがDrマンハッタンの存在だ。そして同時にとても分かりやすく、答えを見つけやすくしている。マンハッタンだけは他のヒーローとは圧倒的に規格外。神に近い存在だ。彼の手で人類は地球はどうにでもなってしまうくらい強大な力を手にした事で、自分を人間だと思っていたのに周囲の反応で悩み苦しむ。マンハッタンが体から放射能を出して周囲の人間を次々癌にしている(かつての愛人まで)と疑惑をつきつけられたことで、地球から出ていく。愛する者への愛は失ってはいないものの、愛についてや人類のことなどどうでもよくなっていた。そして自身を人間から神らしく振る舞うようになった。
精神的な脆さが唯一の弱点なのだ。神に近い存在が精神的な強さに欠けているのは、他のヒーローよりもよっぽど人間らしいし、面白い。
想像が膨らむラストはたまらない。この映画は観ながら常に思考していた…。
ダンクシー

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