チッコーネ

ジュリエット・ビノシュ in ラヴァーズ・ダイアリーのチッコーネのレビュー・感想・評価

1.5
20年位前にロサンナ・アークエットが女優に関するドキュメンタリーを監督し、その中で「アメリカ映画は中年になった女優を起用しない」と訴えていた。
本作はヨーロッパ製作で監督も女性、ドヌーヴやユペールが現役バリバリで活躍するパリが舞台だ。
ということでジュリエット・ビノシュを主役に据え、中年太りが進行した身体を正面から映しながら、物語を紡ごうとする。
彼女の加齢臭が、濃厚にむせ返ってくるような撮り方だ。

その企画自体は悪くないのだが、残念ながらちっとも面白くない。
仕事と家庭の両立に疲れた女、娼婦になることで人生のイニティアシヴを掴んだ気になっている若い女、そして妻や母を尊重しない男たち…、その描き方はことごとく一元的で、新鮮な視点が皆無なのである。
家庭に縛られない人生を生きている私のような人間は「ノンケって、ホントにお気の毒。これなら自適に生きた末、孤独死するほうが全然マシ」とため息が出た。
本作のような映画を撮るにあたり、観客を先導する内容が担保できないなら製作の意味はあるのかと思ってしまうが、もしかすると何らかの事情で、当初の方向性が変更を余儀なくされたのかもしれない。

監督はポーランド人なので、フランス語を流暢に操るポーランド人キャラクターが登場してくるのには、意外性があった。
彼女が困難に直面している時、何も手助けしようとしない学生課の女を透徹に描写する場面だけは、意地悪かつ告発的で良い。