あーさん

マーガレット・サッチャー 鉄の女の素顔のあーさんのレビュー・感想・評価

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サッチャー首相といえば、"鉄の女"。
当時女性でありながら、イギリスの首相として数々の英断を下してきたやり手の政治家のイメージ。
彼女が今作ではどんな描かれ方をしているのか?とても興味があったが、全体的に史実に沿って描かれていたのではないかと思う(一部の側近からは不評らしいが…)。
そして、プライベートの彼女の姿も垣間見れた。

今作の彼女の言葉の中で特に印象に残っているのが、"今は「考え」より「気持ち」を大事にする時代"という言葉。

考えと気持ち、、どう違うのだろう?

気持ちとは、自分の感じること、心の動きなど瞬間的なもの。
考えとは、知的に分析することなど論理的なもの、更にそこに自分の意思や願いが含まれるものだろうか?

如何にも政治家らしい発言だと思う。

そして、
"考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる。考えがその人の人生を創る"と続ける彼女の信念には、ぐうの音も出ない。

男性の政治家を相手に物怖じせず自分の意見を述べる姿は、同じ女性としてとても誇らしい。
政治家のトップにならんとする者に相応しい、強靭な性格、類稀なる才能の持ち主。

1970年代以降のIRA(アイルランド共和軍暫定派)による過激なテロ行為はよく新聞を賑わせていて、政治に疎い私でもよく覚えている。
厳しい状況の中、サッチャー政権はIRAに強硬な対決姿勢を取った。

国内では失業率の悪化、組合との対立の激化、ストライキ、デモ、、頭を抱える問題が山積だった。
その頃の私のヨーロッパのイメージは、経済成長のピークが過ぎて、困窮する姿だった。
サッチャー首相は経済問題に果敢に取り組み、大胆なテコ入れをした(評価は賛否両論だけれど)。

首相が泊まっていたホテルがIRAに爆破されるというアクシデントのシーンが印象的。5人が死亡、30人以上が重傷を負ったのに、奇跡的に彼女は無事だった。恐ろしいほど強運の持ち主でもある。テロに屈しない姿勢は、この経験があったからだと言われている。

そして、1982年に起きたフォークランド紛争。対アルゼンチンのこの戦争は3ヶ月続き、最終的にイギリスが勝利するのだが、"1941年 真珠湾攻撃の時、アメリカはハワイを見捨てましたか?"というサッチャー首相の言葉に、イギリス国民は大いに湧き上がったという。日本人としては複雑な例えだけれど、緊迫する場面でのこの決断はすごいな。。
しかし、多くの戦死者が出る中お悔やみの手紙を遺族へとせっせと書く姿は、苦渋の選択をせざるを得なかった一人の政治家と共に、サッチャー首相が一人の母であることを示していたのではないだろうか。
優しさだけではなく時に強さや決断力が求められる政治の世界で、彼女は精一杯やっていたのだということがわかる。

また演説の為の発声、話し方練習のシーンやミュージカル"王様と私"のダンスを夫デニスと踊るサッチャー首相は、とても女性らしくチャーミングでさえあった。(結婚に至るまでの恋愛パートも微笑ましくて、観ていてワクワクした)

祝勝モード、サッチャー景気を経て、東西冷戦締結の立役者とも言われ、国際的にも強く発言するサッチャー首相の姿は、今でも私達の記憶に強烈に残っている。
直接的ではないけれど、1989年のベルリンの壁崩壊は、ある程度の年齢の人々にとっては歴史が変わる瞬間を目撃した出来事として、深く心に刻まれているはずだ。

その後、だんだん同胞への攻撃的な物言いが増え孤立、税率のことで党内で揉める頃には、少しずつ風向きが変わっていた。

激しいデモ、そして造反。

11年半続いたサッチャーの時代は終わろうとしていた。


特筆すべきなのは、イギリスという国のトップに立ち続けた、偉大な政治家マーガレット・サッチャーを陰で支えた夫デニスの存在。
控え目に寄り添い、いつも彼女を気遣い、
フォローし続けた。気持ちが離れそうになったこともあったらしいが、政界を引退する最後の日も側にいたのはデニスだった。
自分の運命を受け入れ、お互いを活かすように生きた軌跡は、理想の夫婦の在り方のように思えた。

晩年、認知症になる件はとても切ない。。
夫に先立たれ娘キャロルに付き添われる彼女に、もはや昔のように勇ましいサッチャー首相の面影はなかった。
大きなことを成し遂げた人にゆっくり余生を、、というのは酷なのかもしれない。
そして、家族は長きにわたり、本当に大変だっただろう。

メリル・ストリープの素晴らしい演技に終始魅せられる。
若かりし頃のキラキラした瞳のマーガレット・サッチャーも素敵だった。

人生には、山もあり谷もある。
良いとか悪いとか、評価は後からついてくる。右とか左とかどちらが良いとか決めつけたくはない。
政治に自分の理想を掲げ、第一線で走り続けた彼女の人生を、私は素晴らしいと思った。






*フォークランド紛争の件、
3年と書きましたが、3ヶ月の間違いでした。
訂正してお詫び致します🙇‍♀️
あーさん

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