【バレエのように】
私はバレエを見る趣味はないのですが、この『トゥ・ザ・ワンダー』、一言で言うならバレエみたいな映画です。
ヒロインのヨーロッパ人女性(オルガ・キュリレンコ)と、恋人となるアメリカ人男性(ベン・アフレック)の恋愛譚には違いないのですが、ふつうの映画のように二人の関係や愛情の変遷がリアリズムをもとに描かれるのではありません。象徴的な表現が多く、どこか異世界の出来事を目の当たりにしているような感覚に満ち満ちています。
そういう作品として見れば、決して悪い映画ではない。むしろ上出来とも言える。ただ、そういう映画に完全になりおおせているかというと、ちょっと怪しいのです。それは、バビエル・バルデムやレイチェル・マクアダムスといった著名俳優が他にも出てきて、やはり判然とはしないもののそれなりの役を果たしているからで、ここがうまくいっているとは思えない。この種の映画ではリアリズム作品とは異なり、複数の主役は不要。メインになるカップルに絞って象徴的な物語を展開した方が効果的でしょう。
また、象徴的な作りの作品はあまり長くなると観客が飽きてしまうという側面もある。この映画の112分も、今どきの映画としては決して長くはありませんが、作りから言って90分程度で十分だったのではないでしょうか。
要するに副主人公は省き、主役二人の関係に絞っていけば、もっと純度の高い(というのは、この映画の場合は当然ながら褒め言葉になりますから)作品になったはず。そこが惜しい。