SatoshiFujiwara

トゥ・ザ・ワンダーのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

トゥ・ザ・ワンダー(2012年製作の映画)
3.6
この前作である『ツリー・オブ・ライフ』は自分が観た映画の中でも1、2を争うほど乗れなかったーいや、もっと言えば観ながら失笑&腹が立ってしょうがなかったシロモノで(我がフィルマークス記録歴で最低の1.0点がついていた)、それゆえその後のテレンス・マリック作品は全て華麗にスルーしておったが今なぜかこれを観る気になって観てみた。

結論から言えば悪くない。例によって独りよがりの気配は濃厚だし話は削ぎ落としまくって最小限の骨格のみ、不親切です。えらくシンプルな話をなんだかナイーヴかつ思わせぶりに撮っていてやってるやってる感はあるが、何が良いかと言えばエマニュエル・ルベツキの撮影で、とにかく美しい。ほとんどのシーンでカメラは緩やかかつ滑らかに前進もしくは後進しており、決して派手にならないのに鮮やかなその色味が素晴らしい。草原のシーンはマリックがまだ別世界にイッちゃう前(笑)の傑作『天国の日々』での同様の絶美シーン(撮影はアルメンドロス!)思い出させる。

ところで、本作で恋に落ちるニール(ベン・アフレック)とマリーナ(オルガ・キュリレンコ)は、そんな設定ながら作品内でほとんどまともに会話をしないし(ニールに至っては無口な設定ってのもあろうがなおさら。ボンクラにすら見える)対面しない。それを言うならオクラホマの教会のクインターナ牧師(ハビエル・バルデム)も、ニールの幼なじみのジェーン(レイチェル・マクアダムス)も誰も会話らしい会話をしない。代わりにあるのはそれぞれのモノローグであり、しかもそれは登場人物の出身国の言語で行われる(ニールは英語、マリーナはフランス語、牧師はスペイン語)。これ、突き詰めれば結局はそれぞれの神への信仰告白と懺悔/神からの恩寵を信じるか否かの問題なんではないか。マリーナが教会の告解室で牧師に懺悔をするシーンが一瞬登場するが、飛躍を承知で言えば本作はこのシーンを全体に拡張したものだ。恋愛も子供への愛もキリスト教的な愛(アガペー)も相互の信頼関係が基軸になる訳で、本作は根本的にこれが問題になっており、そう考えれば最近のテレンス・マリック作品と根は似ているように思える(先に書いたカメラ移動、常に動いているが故にそこには人間ならぬ他者から観察されているようにも思え、それもまた本作を単なる恋愛物から隔てている要因ではないか)。『ツリー・オブ・ライフ』ではそれをアホみたいに大風呂敷を広げて地球的・宇宙的スケールで描いていたんでまるでついて行けなかったのだな。本作を見てようやく最近のテレンス・マリック作品を潰しに行く覚悟ができたようです。
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