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ウォー・レクイエムのBONのレビュー・感想・評価

ウォー・レクイエム(1989年製作の映画)
3.8
英国映画界の異端児デレク・ジャーマンが、ベンジャミン・ブリテンの『戦争レクイエム』の音楽と、それに内包されたウィルフレッド・オーエンの詩を元に制作し、音楽と映画芸術が見事なまでに融合したヴィジュアル・オペラ作品。

第一次世界大戦、広島、ベトナム、フォークランド紛争など実際の戦時記録映像やニュース映像をモンタージュし、パントマイムや合唱のようなライブパフォーマンスを交え、戦争という野蛮な殺戮の不毛さ、兵士の必然的死、資本家や権力者の虚栄などを、ブリテンのスコアに合わせ美しい地獄の世界に送り出してくれる。

大スター俳優ローレンス・オリヴィエが第一次世界大戦で車椅子に乗った退役軍人を演じ、看護師を演じるのはジャーマン作品には欠かせない人間離れした美しさを誇るティルダ・スウィントン。

塹壕の泥の中で生きる兵士たちの世界で、救いとなるのは神などではなく、兵士たちの中で生まれた絆だということや、兵士たちが戦っているのは敵ではなくそこにはいない野蛮な資本家や権力者。敵も味方もない死ぬしかない兵士たち全てにレクイエムを捧げていると感じました。

無神論者でゲイの権利を主張するために戦い、矛盾に満ちた社会に対して痛烈に批判し、生涯を通し常に疑問とぶつかり合ってきたジャーマンの声が聞こえてくる。

絵画的な感性による豊かな色彩、不条理な人間虐殺、物語と詩と音楽を綱渡りした映画的美学に圧倒される叙情的な作品だった。
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