似太郎

濡れた週末の似太郎のレビュー・感想・評価

濡れた週末(1979年製作の映画)
4.8
三十路女(宮下順子)の不倫関係と底辺に生きる若者2人組(亜湖と安藤信康)との連帯をダラダラした空気感に乗せて描出し、この頃の日活ロマンポルノとしては些か虚無的で乾いたムードを漂わせる異色作。

根岸吉太郎の監督第二作目。脚本は東映の名シナリオライターとして名を馳せた神波史男。撮影が『赫い髪の女』と同じ安藤庄平で、助監督は『人魚伝説』の池田敏春。

実はいま日本の近代文学以上に、日活ロマンポルノ/エロ映画が海外で再評価され高尚な「芸術」として見直されているという情報があり、やはり性的なモノほど政治的で前衛表現と結びついているのかと、感慨深い気持ちになる。

同年の日活ロマンポルノの名作、神代辰巳監督✖️宮下順子✖️亜湖による『赫い髪の女』と比較すると随分冷めていて陰湿な雰囲気でストーリーが進行していき70分間、全く温もりを感じさせない。

エロ映画として成立していないしイマドキの「雰囲気映画」(?)みたいな感触も。そこが根岸吉太郎の味なのか、ニューウェーブ的な感性が強く押し出されている。

少女に聞かせる残酷なグリム童話(赤ずきんちゃん)や、二段ベッドのシュールな構図、「南無妙法蓮華経」の復唱やジェット機音、突如「黒の舟唄」を鼻歌で歌ったりする主人公の虚ろなシークエンスなど、明らかに神代辰巳作品を意識させつつそれを超越していこうとする意志のようなモノを感じる。

少人数のみで展開される愛憎表現とSEX、毎回「ここではないどこか」へ向かっていく宮下順子のニヒリスティックなキャラ造形が、かつての日活ロマンポルノにあった【濃ゆい情念】だとか【退廃的ムード】とは全く違うベクトルのものである。

70年代から80年代へ向かう過渡期の作品としては、長谷川和彦の『太陽を盗んだ男』やクロード・ガニオンの『Keiko』などがある。それらに通底する一種のニヒリズム/柔らかな感性が、根岸吉太郎作品には確かに存在するのだと思う。

この監督の初期ロマンポルノは独自性が高いから要チェックしたい。極めてヒップな傑作。
似太郎

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