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皇帝と公爵のodyssのレビュー・感想・評価

皇帝と公爵(2012年製作の映画)
3.0
【戦時中に生きる人々を描く群像劇】

邦題にはいささか問題があります。ナポレオン皇帝とウェリントン公爵の意味なのでしょうが、この映画には生身のナポレオンは出てきません。肖像画としては登場(?)しますけど。原題は「ウェリントンのライン(線)」の意味。ライン(線)はこの場合、戦争を見越して作られる防御用の一連の要塞を言っています。第一次大戦のあとフランスが作ったマジノ線なんかは有名ですね(ナチス・ドイツに打ち破られましたけど)。

それはさておき。
この映画は戦争映画ではありません。少なくとも派手な戦闘シーンは出てこない。戦時中のお話ではあるのですが、戦時中に司令官や兵士、一般の市民たちがどのような状況におかれるのかを描いている、一種の群像劇なのです。

ですから、ウェリントン公爵(将軍)は出てきますけど、巧みな作戦を苦労して練り上げたり、戦闘の指揮を行ったりといったシーンはなく、自分の肖像画に意見を述べたり、料理に凝ったりするなど、趣味人でもあった彼の様子が主として映し出されています。

戦友が死んで、その若い未亡人に惹かれていく兵士。奔放な良家の令嬢に振り回される将校。頭に傷を負ったものの、夫や他の家族を失ったまま現地に住む初老の婦人に助けられる若い将校。

何より、戦火の中を家族と荷物を抱えつつ必死に避難していく一般の市民たちの様子が、戦争というものの隠れた一面をしっかりと観客に伝えています。孤児や、戦傷者を必死に看病する教会のシスターもいる。そうした混乱の中で妻を見失った夫が必死に探し回るものの、ようやく見つけた妻は見知らぬ兵士のものになっている。また妻もこないだまで夫だった人間にはつれない態度をとる。戦争故の悲劇なのか、或いは世の中はこういうものだということなのでしょうか。

それから、この映画ではフランス軍は基本的に悪役として描かれています。一般にはフランス革命はプラス評価で歴史教科書に描かれることが多いのですが、その後のナポレオン戦争は他国からすれば侵略戦争であり、この映画でも基本的にそういう見方が取られているのです。ただ、善悪を強調するのが狙いではありません。戦争の中で、悲劇もあれば喜劇もある様々な人間模様――それを描くことが制作者の意図なのでしょう。そういう群像劇として見れば、まあまあの映画とは言えるでしょう。ただ、観客を惹きつけて離さない、というほどの出来栄えにはなっていません。

兵士である夫を失い、お腹に赤ん坊を抱え、夫の友人の兵士から求愛されてもそれを退け、故郷に帰って夫の子供を育てようとする新妻が、この群像劇の中で最も印象に残りました。演じている女優が私好みのためもあります。Jemima Westでしょうか。また映画で再会したいものです。
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