むるそー

野獣死すべしのむるそーのレビュー・感想・評価

野獣死すべし(1980年製作の映画)
4.5
平凡な暮らしをする一人の男の秘められた狂気が徐々に露わになっていくハードボイルド・ノワール。

本作について、松田優作の狂気的な演技と雑な言葉で片付けたくはないが、そうとしか形容できないほど一人の俳優の存在感が大きすぎる。

冷静で理知的な人間としての一面と、感情に支配された野獣としての一面を併せ持つ彼の、その境界線は徐々に曖昧になっていく。終盤のトンネルで見せた、戦場の凄惨な記憶と現実がトランスして完全な野獣へ変容していく姿は圧巻。

リップヴァンウィンクルの話と共にロシアンルーレットをするシーンがとても印象的だが、刑事役の室田日出男の演技も凄まじい。汗一つ流さずに淡々と弾倉を一発ずつ空にしていく松田と、紅潮した顔で冷や汗をだらだら流している室田の2人の対比がこのシーンの異様な緊迫感を演出している。

ラストのコンサートホールの階段で撃たれる長回しのショットは余白を残す終わり方になっているが、個人的には彼は記憶の中の戦場で撃たれたのだと解釈した。過去と現在の時間軸が並列になって、過去の一点で殺されたことによって現実でも死んだ、みたいな。リップヴァンウィンクルの話にも重なる。

ジョーカーやタクシードライバーと違うのは、本作の松田優作は自身の野獣性を物語開始前から持っていた点だろう。今年公開のフォリアドゥでは本作のような狂気をばら撒くジョーカーの姿が見れるかも?
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